グリオーマの側脳室下帯への浸潤は悪性度や腫瘍体積とは独立した治療前の認知機能障害の予測因子である

公開日:

2025年11月12日  

Impact of Subventricular Zone Invasion on Preoperative Cognitive Decline in Patients with Diffuse Glioma

Author:

Li H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Chang Gung Memorial Hospital at Linkou, Taoyuan, Taiwan

⇒ PubMedで読む[PMID:40788002]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

側脳室下帯(SVZ)へのグリオーマの浸潤,あるいはSVZに浸潤した腫瘍部分の摘出が予後に与える影響については長く議論されてきた(文献1-4).一方,グリオーマのSVZへの浸潤が認知機能に与える影響に関しては十分にわかってはいない.台湾桃園市の長庚記念病院脳外科は,自験のWHOグレード2-4の未治療びまん性グリオーマ129例を対象とし,グリオーマのSVZへの浸潤が治療前の認知機能障害に与える影響を検討した.
SVZ浸潤陽性(SVZ+)が64例,陰性(SVZ−)が65例であった.SVZ+腫瘍は左半球に多く(79%),言語野への浸潤が多く(41%),側頭葉(34%)に好発していた(いずれもp <.05).

【結論】

低悪性度膠腫では,SVZ+は言語機能および視覚学習障害のリスクを高め,高悪性度腫瘍では言語および聴覚学習障害のリスクを高めた.右半球腫瘍においては,SVZ+が全般的認知機能,遂行機能,言語機能の低下と関連し,左半球腫瘍では言語および聴覚学習障害のリスク上昇と関連した.
SVZの前角部浸潤は作業記憶低下と,体部浸潤は情動障害と関連していた.
SVZ+は年齢,T2高信号の腫瘍体積,WHOグレードと並ぶ独立した認知機能低下の予測因子であった.
年齢,T2腫瘍体積,SVZ浸潤を組み合わせた最終モデルおよびノモグラムは,認知機能障害予測において中等度の精度(AUC=0.749)を示した.

【評価】

従来,SVZを含む高悪性度あるいは低悪性度グリオーマでは,全生存期間および無増悪生存期間が短縮することが示されている(文献1-4).一方グリオーマの患者では,認知機能・情動機能・身体機能の低下が予後不良の予測因子となることが知られており,認知障害と腫瘍浸潤の重症度との関連が示唆されている(文献5-7).
台湾の単一施設における未治療びまん性グリオーマ129例を対象としたこの後方視研究では,グリオーマのSVZへの浸潤は,腫瘍が発生した半球や悪性度とは独立して術前認知機能に影響を及ぼし,SVZの特定の亜領域への浸潤がそれぞれ異なる認知機能障害と関連していた.
SVZへのグリオーマの浸潤が認知機能障害をもたらす理由については,①SVZに元々存在するオリゴデンドロサイト前駆細胞や放射状グリア細胞(神経幹細胞)がグリオーマ発生の起源とされており(文献8),SVZ浸潤を伴う腫瘍はより高い浸潤性を示すことから,非浸潤腫瘍よりも悪性度が高く,認知機能への影響も大きい可能性,②動物実験では,SVZの神経幹細胞は,枯渇により認知機能低下を,再生により認知機能の回復をもたらすことが示唆されており(文献9,10),SVZに浸潤する腫瘍が正常なSVZ機能を障害し,認知機能維持能力を低下させる可能性,この二つが示唆されている.
本研究結果が,グリオーマ患者の認知機能推定や予防的リハビリテーションに役立てられることを期待したい.そのためには,SVZを意識した術前腫瘍マッピングが必要であろう.
また,本研究結果の他施設のコホートでの検証も待たれる.

執筆者: 

有田和徳

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