米国脳外科ボード専門医の受験前の論文発表数は年々増加しており,最初の論文発表学年は早くなっている:過去40年の推移

公開日:

2026年2月9日  

Trends in research output among practicing US neurosurgeons over the last 40 years

Author:

Sundrani S  et al.

Affiliation:

Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, Tennessee, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41004854]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Sep
巻数:143(6)
開始ページ:1667

【背景】

最近の脳外科関連の論文の執筆者にはMDではなくBSやBAの肩書き,すなわち未だ医学部卒業前の学生の手による論文が増えている.
本稿は,米国において1980年以降に脳外科ボード認定医として登録され,まだ退職していない4,308名を対象に,各脳外科医毎のボード認定前の総論文数と出版率(ある期間の総論文数/期間の年数)の変化を解析したものである.
その結果,1980年以降の各10年において,脳神経外科医はボード認定前に,総出版数および筆頭著者/責任著者としての出版数のいずれにおいても,前の10年より多くの論文を発表していた.

【結論】

例えば1980年代は,ボード認定前の期間の1人あたりの総論文数は中央値4本であったが,2020年以降は23本となり,出版率も中央値0.5本/年から1.5-2本/年と上昇していた.
また近年では,より早期から出版活動を開始しており,最初の論文発表からボード認定年までの期間は,1980年は中央値5年前後であったが,2017年以降は中央値12年前後となっている.初回出版からの経過時間および平均共著者数で補正しても,より最近のボード認定医は出版数の有意かつ独立した予測因子であった(p <.001).
さらに,ボード認定前の出版率は認定後の出版率を予測する有意な独立因子であった(p <.001).

【評価】

米国では,脳外科レジデントになること自体,またその後のキャリア形成にとって,学術論文業績のウェイトがどんどん高くなっていることが従来から指摘されている(文献1,2).今回の論文は,1980年から2024年までに脳外科ボードで認定された現役の脳外科医たちの,ボード認定前の論文数の経年的変化を解析したものである.
本論文を通して,米国の脳外科レジデント希望者と脳外科ボード受験者が自己への高い評価を獲得するために,特に近年は早い段階から医学論文の執筆に力をいれていることがわかる.特に,インターネットを通した科学論文へのアクセスが容易になった2002年を転換点としてその勢いは強くなっている.もちろん近年の医学論文では共著者数が増えているので,すべてが受験者本人の努力の成果ではないが,筆頭著者/責任著者としての論文に限っても,例えば1980年代は,脳外科ボード認定までの論文数中央値は2本であったのに対して,2020年代では7本とやはり急増している.
すでに同様の解析結果は2024年5月にもJNSに掲載されている(文献3).2024年JNSの論文(「米国の脳外科レジデントはどのくらいの論文数を有しているのか」)は,現役の脳外科レジデント1,690人の論文数を横断的に調査したもので,これによれば,米国の現在(2023年段階)の脳外科レジデントのこれまでの執筆論文数は1人あたり平均17本であった.卒後1年目では平均11本であるが卒後7年目では平均22本と倍増していた.
本論文で興味深いのは,最初の論文発表から脳外科ボード認定までの期間が徐々に開いていることで,1980年代は中央値4年であるから,多くのレジデントがボード認定試験の4年前,すなわちレジデントになって2-3年の段階で最初の論文を発表していたことになる.ところが,2017年以降は中央値12年前後となっているということは,脳外科レジデントとなる以前,すなわち医学部学生の段階から学術論文を発表していることになる.
米国全体では,毎年数百人が脳外科レジデントとなることを希望するが,募集数は約240人(約120施設)と限られている.マッチ率は60-70%と言われている.この激しい競争に打ち勝ち,レジデントとして採用されるためには希望者が高い「学術的ポテンシャル=科学的生産性」を有することを証明する必要性がある.上記のデータは,そのための努力が医学部入学の早い段階から行われていることを反映している.
ちなみに本論文の著者5人のうち脳外科医は1人で,筆頭著者のSundrani Sをはじめとする4人は肩書きがBS(自然科学,理系大学卒業生),すなわちまだ医学部学生である.
さらに,一旦脳外科レジデントとなった後も7年間の各レジデントプログラムには1-2年間のベッドフリーの研究期間が設定されているように,米国の脳外科レジデントプログラムは強い学術指向を有している.毎年1本以上の筆頭著者論文の発表を推奨しているプログラムもある.レジデント期間内に十分な数の論文の発表がなければ,ボード認定に際して,プログラムディレクターからの高評価の推薦状が得られなかったり,口頭試験(Oral Board)で学術的成熟度が低いという評価につながる可能性がある.さらに,レジデントとしての厳しい修練が終わって脳外科ボードをとっても,そのまま自動的にレジデントを行った施設でフェローシップのポストが得られるわけではないので,良い条件のポストを探す必要性があるが,その際も執筆論文の数と質は重要なセールスポイントである(文献4,5).これも脳外科レジデント期間中の執筆論文数が増加する要因となっている.
もう一つ,今回の論文で重要な指摘は,ボード認定前の年間論文発表数は認定後の年間論文発表数と独立正相関を示したことである(β=1.39,p <.0001).これは,キャリア早期(ボード認定前)に多くの論文を出版する医師は,キャリアが確立した後も研究活動を継続する傾向が強いことを意味する.脳外科レジデントプログラムに入れてもらうために,続いて脳外科ボードに通るために,いやいや始めたアカデミックワークも,いくつかの論文を書いているうちに,論文執筆を楽しむ感覚が芽生えてきたということかも知れない.

執筆者: 

有田和徳