公開日:
2024年11月16日最終更新日:
2024年11月18日"Intrasellar tumor-to-tumor metastasis: A single center experience with a systematic review"
Author:
Mansur G et al.Affiliation:
Department of Neurological Surgery, Wexner Medical Center at The Ohio State University, Columbus, OH, USAジャーナル名: | Pituitary. |
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発行年月: | 2024 Oct |
巻数: | 27(5) |
開始ページ: | 455 |
【背景】
悪性腫瘍の下垂体への転移は稀で,全下垂体腫瘍手術症例の1%,全頭蓋内転移性腫瘍の1%以下とされている(文献1,2).それでも,国毎の集計では20-30年で数十例の数は上がってくる(文献3-5).
一方,本論文のテーマである悪性腫瘍の下垂体腫瘍(PitNET)への転移はさらに稀で,その病態は不明である.オハイオ州立大学脳外科は自験の2例を含む過去の報告38例のシステマティック・レビューを行った.
38例のPitNETの内訳は,FSH/LH産生腫瘍21%,ナルセル腫瘍18%,プロラクチン産生腫瘍18%,成長ホルモン産生腫瘍11%,ACTH産生腫瘍8%,FSH産生腫瘍5%,臨床的非機能性腫瘍18%であった.
【結論】
全38例の年齢は平均65歳(SD:11)であった.PitNETに転移した癌の内訳は,肺癌21%,乳癌18%,大腸癌11%,その他,食道,胃,膵臓,前立腺,腎などの癌であった.臨床症状は,視機能障害74%,頭痛21%,複視21%などであった.
治療の内訳は,経鼻内視鏡下摘出37%,経蝶形骨洞的摘出34%,開頭摘出16%,記載なし13%であった.亜全摘が39%,肉眼的全摘が8%で達成できた.
31例でのKM生存解析では,OS中央値は7ヵ月であった.治療法別では,経鼻内視鏡下摘出が行われた症例のOSが最も長く12ヵ月であった.全例の境界内平均生存期間(RMST)は20.8ヵ月であった.
【評価】
頭蓋内腫瘍への癌の転移では髄膜腫への肺癌や乳癌の転移が有名であるが(文献6,7),本稿は下垂体腫瘍(PitNET)への癌の転移の臨床像の解析である.転移性脳腫瘍における原発癌の頻度と同様に,下垂体腫瘍への転移でも,肺癌(21%)と乳癌(18%)の頻度が高かった.
臨床症状は,視機能障害74%,頭痛21%,複視21%であり,急速に増大する転移した癌の性質を反映しており,転移された側の下垂体腫瘍の症状であるホルモン過剰症状や欠損症状は記載されていない.
問題は,手術-病理診断の前に,この癌の下垂体腫瘍への転移を疑うことができるかである.急速に増大する下垂体部腫瘍のMRIで主病変と別の造影パターンを呈する副病変があれば,類推が可能かも知れない.
さらに,摘出した腫瘍の病理学的検査でも,これまでには,腫瘍の大部分を占める癌のみを診断して,癌の下垂体部への転移としてレポート されてきた可能性があるかも知れない.
本稿では治療については言及されていないが,当然,定位的な放射線照射が補助療法の第一選択として挙げられる.
今後,人口の高齢化と担癌患者の増加に伴って,この癌の下垂体腫瘍への転移症例も増えてくるものと思われる.
下垂体外科医,放射線診断医,病理医とも警戒しておかなければならない.
<コメント>
我々脳神経外科医にとって,癌の髄膜腫内転移は時に経験することがあるが,PitNETへの転移は極めて稀である.我々も,75歳男性の肺腺癌がPitNET内に転移した症例を経験し,2023年末にEndocrine Journalに報告した(文献8).この症例は視力・視野障害と外眼筋麻痺で発症した.通常,PitNETが外眼筋麻痺で発症する場合は,下垂体卒中か増殖能の高い腫瘍が原因であることが多く,この患者に関しては前者と考え経鼻的手術を実施したが,術中所見は典型的なPitNETの所見であった.しかし,後日,病理医から肺腺癌の転移であると知らされ,大変驚いたことを覚えている.
また,PitNETでは腫瘍全体を病理検査に提出しないため,偶然にも今回転移巣が病理組織に含まれていたことは幸運であった.このような症例を経験するのは初めてであったため,過去の文献を調査したところ,意外にも多くの報告が見つかった.私たちは前述の論文の中で33症例のレビューを行なったが,原発巣の種類については通常の癌の下垂体への転移と同様であった.また,転移の受け手となるPitNETの内訳も,臨床的非機能性腫瘍が66.7%,プロラクチン産生腫瘍が18.2%,先端巨大症が12.1%,クッシング病が3%と,通常の頻度に類似しており,特定のPitNETが悪性腫瘍と特に親和性が高いわけではないことが示された.
興味深い点としては,我々の調査したPitNET内転移の過去の報告には,初発症状として中枢性尿崩症を呈した例が一例も無かったことが挙げられる.一方で,通常の転移性下垂体腫瘍は尿崩症で発症することが多く,ある報告では45.2%が尿崩症を呈しており(文献9),また国内の全国調査でも27.4%に尿崩症が認められている(文献3).この点が,癌のPitNET内転移と転移性下垂体腫瘍の大きな相違点ではないかと考えられる.
いずれにせよ,画像や臨床症状が非典型的な症例については,このような転移症例が含まれている可能性を考慮して手術を行う必要があると考える.(日本医科大学武蔵小杉病院脳神経外科 田原重志)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Saeger W, et al. Pathohistological classification of pituitary tumors: 10 years of experience with the German pituitary Tumor Registry. Eur J Endocrinol. 156(2):203–216, 2007
- 2) Ng S, et al. Current status and treatment modalities in metastases to the pituitary: a systematic review. J Neurooncol. 146(2):219–227, 2020
- 3) Habu M, et al. Pituitary metastases: current practice in Japan. J Neurosurg. 123(4):998-1007, 2015
- 4) Haberbosch L, et al. Metastases to the pituitary gland: insights from the German pituitary tumor registry. Pituitary. 26(6):708-715, 2023
- 5) Schill F, et al. Pituitary Metastases: A Nationwide Study on Current Characteristics With Special Reference to Breast Cancer. J Clin Endocrinol Metab. 104(8):3379-3388, 2019
- 6) Campbell LV, et al. Metastases of cancer to cancer. Cancer 22(3), 635–643, 1968
- 7) Sayegh ET, et al. Tumor-to-tumor metastasis: breast carcinoma to meningioma. J. Clin. Neurosci. 22(2):268–274, 2015
- 8) Suzuki K, et al. Lung adenocarcinoma metastasis within a pituitary neuroendocrine tumor: a case report with review of literature. Endocr J. 71(3):295-303, 2024
- 9) Komninos J, et al. Tumors metastatic to the pituitary gland: case report and literature review. J Clin Endocrinol Metab. 89(2):574-80, 2004