4 cmを超える巨大頭蓋咽頭腫の手術は開頭か内視鏡下の拡大経鼻経蝶形骨洞手術か:北京天壇病院の73例

公開日:

2026年2月9日  

Surgical management of giant craniopharyngiomas: expanded endoscopic endonasal or transcranial approach?

Author:

Bao Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:41569915]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭蓋咽頭腫のうち4 cmを超える巨大頭蓋咽頭腫に対する開頭手術(TCA)と比較した内視鏡下拡大経蝶形骨洞手術(EEA)の優位性についてはまだ確定していない.
本稿は,北京天壇病院で,2011年から2023年の間に摘出手術が施行された巨大頭蓋咽頭腫73例の後方視的解析である.42例ではEEAが,31例ではTCAが採用されていた.EEAは2013年から導入され,経年的に増加し,近年は殆どの症例でEEAが選択されていた.術前の腫瘍径,臨床症状,下垂体前葉機能低下症の頻度,尿崩症の頻度には2群間で差はなかった.EEA群では第3脳室方向進展がやや多い傾向であった(54.8% vs 34.7%,p =.10).

【結論】

腫瘍全摘出率は2群間で差はなかった(EEA 83.3% vs TCA 77.4%).術後髄液漏の発生率はEEA群で高かった(14.3% vs 0.0%,p =.08).視機能改善率はEEA群で高かった(52.4% vs 22.6%,p =.01).術後視床下部機能はEEA群で良好であった(p =.04).術後汎下垂体機能不全,部分的下垂体機能不全から汎下垂体機能不全への進行,恒久的な尿崩症の発生はTCA群で高かった(いずれもp <.05).腫瘍再発率,学校/仕事への復帰率,PFSに差はなかった.術後長期ホルモン補充はEEA群で少ない傾向であった(46.3% vs 69.0%,p =.06).

【評価】

頭蓋咽頭腫のうち4 cmを超える巨大頭蓋咽頭腫は視床下部-下垂体のみならず周囲組織に進入するため,開頭手術(TCA)による摘出は容易ではない.蝶形骨縁アプローチ,前外側アプローチ,前頭半球間裂アプローチなど種々の経頭蓋アプローチ(TCA)が提案されているが(文献1-3),これらのTCAでは脳の牽引,重要な神経・血管構造の操作が避けられないことに加えて,視交叉後方や第三脳室内に進展する腫瘍では直視が困難な場合が多い(文献4,5).近年,内視鏡技術の発展とともに内視鏡下拡大経蝶形骨洞アプローチ(EEA)が鞍上部頭蓋咽頭腫の摘出法として注目されている.EEAは脳の牽引を必要とせずに,視交叉後方-第3脳室内への広い視野を提供し,周囲の神経・血管へ到達経路を提供する(文献6-9).しかし,巨大頭蓋咽頭腫に対するEEAと従来のTCAの安全性・有効性を比較したデータは限られている.
本稿は,中国最大の脳神経外科センターである北京天壇病院における2011年から2023年までの巨大頭蓋咽頭腫に対する手術成績を,TCAとEEAを比較しながら解析したものである.当初はすべてTCAでの摘出であったが,責任著者のHong Tがピッツバーグ大学でEEAを習得して帰国した2013年以降は,徐々にEEA手術が増加して,最近は殆どEEAとなっている.腫瘍全摘出率はTCAとEEAで同一であったが,EEAでは視機能改善率が有意に高く,術後視床下部機能(De Vileらの4段階分類)(文献10)も有意に良好であった.また,下垂体前葉や後葉機能の温存率も高かった.当然,術後髄液漏はEEA群のみに認められた.手術死亡に差はなかった(EEA 2.4% vs TCA 6.5%,p =.79).
著者らはこの結果を受けて,EEAは巨大頭蓋咽頭腫に対する安全で有効な手術法であり,TCAに代わり得る実行可能な手法であると結論している.
現在,頭蓋咽頭腫のうちBRAF V600E遺伝子変異を伴う扁平上皮乳頭型の頭蓋咽頭腫では,BRAF阻害薬,MEK阻害薬による治療法の開発が進んでいる(文献11).画像検査やcell-free DNA解析によって非侵襲的にBRAF V600E遺伝子変異が診断できれば,巨大頭蓋咽頭腫のうちでも扁平上皮乳頭型の頭蓋咽頭腫では,術前ネオアジュバント薬物治療で腫瘍サイズの縮小を得てからEEAを行うという治療戦略は現実的なものになっている.一方,現段階ではエナメル上皮腫型の頭蓋咽頭腫における有効な薬物療法は未だ確立されていないが,今後Wntシグナル伝達系に対する分子標的治療の発展とともに,同様の治療戦略が登場する可能性はある.

執筆者: 

有田和徳

関連文献