小脳出血に対する血腫除去術の意義はどこにあるのか

公開日:

2019年10月16日  

最終更新日:

2021年6月7日

Association of Surgical Hematoma Evacuation vs Conservative Treatment With Functional Outcome in Patients With Cerebellar Intracerebral Hemorrhage.

Author:

Kuramatsu JB  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, University of Erlangen-Nuremberg, Erlangen, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:31593272]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2019 Oct
巻数:322(14)
開始ページ:1392

【背景】

小脳出血に対する血腫除去手術が機能予後を改善するか否かは,まだ結論が出ていない.この点を明らかにするために,過去に米国とドイツで実施された脳内出血に対する4個の観察研究の6,580例のうち578例の小脳出血を対象にメタアナリスを行った.傾向スコアマッチング法によって,152例の血腫除去手術症例と152例の保存的治療症例を抽出し,比較した.2群間で年齢(68.9 vs. 69.2歳),男女比(男性:55.9 vs. 51.3%),血腫体積(20.5 vs. 18.8 cm3),抗凝固剤の使用頻度(60.5 vs. 63.8%)には差はなかった.

【結論】

調整後,発症3ヵ月後の機能予後良好(mRS 0~3)は二群間に差はなかった(30.9 vs. 35.5%;調整後オッズ比[AOR],0.94,p=0.43).生存率は 発症3ヵ月後 (78.3 vs. 61.2%;AOR,1.25,p=0.005),12ヵ月後(71.7 vs. 57.2%;AOR,1.21,p=0.02)で,手術治療群で有意に高かった.血腫量が12 cc以下では,血腫除去術群でmRS 0~3の割合が低く(30.6 vs. 62.3%,p=0.003,血腫量が15 cc以上では血腫除去術群で生存率が高かった(74.5 vs. 45.1%,p<0.001).

【評価】

小脳出血は脳出血の約10%を占めるが,脳幹圧迫による致死率は高く,欧米と日本のガイドラインでは血腫径が3 cm以上で神経症候が悪化していたり,水頭症を来している場合に手術適応とされている.しかし,エビデンスには乏しく推奨レベルはC1に留まっている.本メタアナリスでも,血腫量が大きい場合(≧15 cc)は,血腫除去術群の方が生存率は有意に高かった.直径3 cmの血腫径は概ね13.5 ccに匹敵するので,従来のガイドラインの妥当性が示唆されたことになる.一方,一次エンドポイントである発症3ヵ月の機能予後については,血腫除去群と保存的治療群で差はなく,比較的小さな血腫(≦12 cc)の場合,むしろ血腫除去術群は保存的手術群よりも機能予後良好mRS 0~3の割合が少なかった.小さな血腫を除去するのに必要な小脳への侵襲が血腫除去の効果を上回るのかも知れない.なお,本研究は傾向スコアマッチング法を用いて2群の症例を抽出しているが,この検討の対象となった症例がいずれも観察研究の対象であるため,交絡因子の影響を完全には排除出来ない.
一方,サブグループ解析では血腫量の違いによって,血腫除去手術の機能予後に対する効果は異なることが示唆されている(交互作用 p=0.006).例えば,血腫量15~26 ccのグループでは,mRS 0~3の調整オッズ比は1.22(0.91~1.63)と手術群の方で良好な傾向がうかがえる.今後,血腫量を層別化したRCTの必要性があるが,当分はガイドラインの推奨を尊重すべきであろう.

執筆者: 

菅田淳   

監修者: 

有田和徳