MRIで所見が無いか微妙な側頭葉てんかん患者における手術療法の効果を予測する因子は何か

公開日:

2022年2月15日  

最終更新日:

2022年2月15日

Postsurgical seizure outcome in temporal lobe epilepsy patients with normal or subtle, nonspecific MRI findings

Author:

González Otárula KA  et al.

Affiliation:

Department of Neurology and Neurosurgery, Montreal Neurological Institute and Hospital, McGill University, Montreal, Quebec, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:34972090]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

MRIにおける海馬硬化などの所見の存在は,側頭葉てんかんに対する切除術後のけいれんコントロールの最良の指標である.ではそのように明瞭なMRI所見がない症例では何が手術後のけいれんコントロールを左右するのか.カナダ国MNIと米国UCSFの合同チームは,1994年以降15年間に切除手術を行った側頭葉てんかん患者のうち,MRIで所見がないもの47例と微妙なもの26例併せて73例(女性59%,年齢中央値35.9歳,てんかん病悩期間中央値13年)を対象に,最終追跡時のエンゲル・クラスIに寄与する因子を求めた.術後追跡期間中央値は30.6ヵ月.

【結論】

最終追跡時のクラスIは44%であった.術後てんかんコントロールと関係が疑われる14の項目について多重ロジスティック回帰分析を行った.その結果,クラスIの予測因子は,非運動性で意識保持性の焦点発作すなわち前兆=アウラ(前兆のない症例に比較して,p=.02)と,頭皮脳波における発作間欠期の一側性の棘波か両側とも棘波なしであった(両側性に独立した棘波を認める症例に比較して,p=.04).
なお,対象症例の病理診断は内側側頭葉硬化が40%,グリオーシスが42%,FCDタイプ1か2が7%であった.

【評価】

難治性の側頭葉てんかん患者のMRI画像における海馬萎縮などの陽性所見が,手術後のてんかんコントロールの強い予測因子であることは良く知られている(文献1,2).一方,難治性側頭葉てんかん患者の30%はMRIで異常所見がないか微妙であり(文献3),そのような症例ではMRIで海馬萎縮が認められる症例に比較して,手術後のてんかんコントロール率が低下することも良く知られている(75 vs. 51%,文献4).本研究は,難治性側頭葉てんかん患者で切除術を受けた患者の中でMRIで異常所見がないか微妙あるいは曖昧な73例を解析したものである.その結果,焦点性非運動性意識保持発作すなわち前兆が存在することと発作間欠期頭皮脳波で両側性独立性棘波を認めないことの2つが,良好な術後てんかんコントロール(エンゲル・クラスI)と相関していた.
前兆は,焦点が内側側頭葉に限局するてんかん発作症状として最も典型的なものであり,その存在が側頭葉切除術後のてんかんコントロール状況と強く相関していたということは良く理解出来る.また,頭皮脳波での両側性の独立性棘波の存在は二次性てんかん焦点の登場を意味している可能性があるので,てんかんコントロールは不良であるというのも了解可能である.では棘波が無いのが良好な術後てんかんコントロールと相関するというのはどういうことか.著者らは,そのような症例を “oligospiker” と呼んでおり,側頭葉てんかんの重症度が低いことを意味していると推測している.
なお,本研究対象の73例中52例(71%)がFDG-PET検査を受け,38例(52%)が頭蓋内脳波検査を受けている.本文中にはFDG-PET検査所見は術後のてんかんコントロールとは関係がなかったと記載されている.すなわち一側性のトレーサー集積の低下症例では,低下なしか両側性の低下症例と比較して,術後てんかんコントロールが良好であったという事実はなかったとの事である.サンプルサイズの問題かも知れないが,従来の報告と明らかに矛盾するものであり(文献5),今後の重要な検討課題である.
本研究の問題点としては,海馬,扁桃体の体積測定のデータがないこと,対象の73症例は北米2施設の症例の寄せ集めであり,施設間あるいは術者間での術前評価や手術法に相違がある可能性が否定出来ないことが挙げられる.
単一施設,単一術者,単一プロトコールでの検討結果が欲しいところである.この点では,最近発表されたインドネシア国中部ジャワ州Diponegoro大学で手術したMRIで異常所見のない側頭葉てんかん154例の解析が注目に値する(文献6).彼らは,前兆一般ではなく,その中味まで踏み込んだ解析を行っている.その結果,自律神経性や精神感情性の前兆に比較して,感覚性前兆が術後けいれん消失と最も強く相関すると結論している.

<コメント>
本論文の「焦点性非運動性意識保持発作すなわち前兆が存在することが側頭葉てんかんらしさを支持する」との主張について,井上らは、側頭葉てんかん術後に再発した前兆について術前の頭蓋内脳波記録をもとに詳細な検討を加えている(文献7).側頭葉てんかんの術後に前兆が再発する例,特に内側側頭葉てんかんでは発作発射が側頭葉内側・底部の後方に波及しやすいことを報告しており,前兆の内容についての記載はないものの,本論文でも示されたような前兆と側頭葉内側構造との密接な関連が示唆されている.Diponegoro大学からの報告にあるような、前兆の内容と発作転機に関する詳細な検討を通して、側頭葉てんかんにおけるてんかん波が波及する部位の症候学的な推測が可能になることが期待される.
(鹿児島大学てんかんセンター 花谷亮典)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

飯田幸治