心原性脳塞栓に対する抗凝固剤スタートは “1-3-6-12日” ルールよりも “1-2-3-4日” ルールで

公開日:

2022年2月14日  

最終更新日:

2022年2月14日

Practical "1-2-3-4-Day" Rule for Starting Direct Oral Anticoagulants After Ischemic Stroke With Atrial Fibrillation: Combined Hospital-Based Cohort Study

Author:

Kimura S  et al.

Affiliation:

Department of Cerebrovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita, Osaka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35105180]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2022 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

心原性脳塞栓症のうち大梗塞例では抗凝固剤の早期投与が出血性変化を起こすことが危惧される.このため,欧州不整脈学会は,心原性脳塞栓症のうちTIAでは直ちに抗凝固療法を開始するが,梗塞の重症化に従って開始を遅らせる1-3-6-12日ルールを提唱している(文献1).しかし,このタイミングでは遅すぎるのではないかという考えもある.国立循環器病研究センターなどのチームは本邦での心原性脳塞栓症に対する抗凝固療法に関する前向き登録研究であるSAMURAI-NVAF研究とRELAXED研究に登録された患者のうちDOACが新たに開始された1,797例を開発コホートとして,適切な服用開始日に関する検討を行った.

【結論】

症例はTIA67例,軽症脳梗塞(NIHSS≦7)899例,中等症(同8~15)370例,重症(同≧16)461例で,各群でのDOAC開始中央値は発症2,3,4,5日後であった.DOACをこの中央値前日(1,2,3,4日)までに投与した早期開始群785例はそれ以降開始の晩期開始群に比較し,発症90日までの脳卒中か全身塞栓症は有意に少なく(1.9 vs 3.9%,調整HR 0.50),虚血性脳卒中も有意に少なかった(1.7 vs 3.2%,調整HR 0.50).大出血は2群間で差がなかった.欧州の6個の登録研究の症例2,036例を用いた検証では,虚血性脳卒中の発生は両群で同様であった(2.4 vs 2.2%).

【評価】

心原性脳塞栓症の急性期では再発率が5~14%と高く,抗凝固療法の早期開始が望ましい.しかし,重症例では抗凝固療法の早期開始によって頭蓋内出血を起こしやすいことが危惧されている.1-3-6-12日ルールは欧州不整脈学会がエキスパートオピニオンとして提唱している考え方で,TIAでは直ちに抗凝固療法を開始し,軽症の脳梗塞では3日目に開始し,重症化するに従って開始を遅らせるというものである.
しかし,それでは超急性期の再発を防止出来ないことと,短時間作用性で出血性イベントへの対処が容易なDOACの普及によって,臨床現場ではより早期にDOACが開始されることが増えてきた(文献2,3,4).
本邦における心原性塞栓症に対する抗凝固療法に関する前向き登録研究であるSAMURAI-NVAFによれば,脳卒中,全身性合併症,大出血,死亡の発生はDOAC投与開始が発症後3日以前の群と4日以降の群で差が無いことが明らかになっている(文献5).では,重症度毎に分けた早期開始群と晩期開始群の比較ではどうなのかというのが,本研究のきっかけとなった臨床的な問いである.
先ず,SAMURAI-NVAF研究とRELAXED研究に登録されDOACが新たに開始された患者1,797例を対象にDOAC投与開始日を重症度別に調べたらその中央値は2,3,4,5日後であった(文献5,6).そこで,この中央値の前日1,2,3,4日以前に投与開始がされた早期開始群とそれ以降に開始された晩期開始群を比較してみたら,脳卒中の発生は早期投与群で有意に少なく,大出血の発生には差がなかったという結果になった.スマートなアイデアによる研究であり,明快な結果である.心原性脳塞栓症に対する至適なDOAC開始日に関しては,現在,TIMING,OPTIMAS,ELAN,STARTと4つの国際研究が進行中であり,今回,オールジャパンで提唱された1-2-3-4日ルールの正当性が,近い将来これらの研究によって証明されるかも知れない.
一方で,検証コホートとして設定した欧州の6個の登録研究の合計2,036例に対してこの1-2-3-4日ルールを適用してみたところ,虚血性脳卒中の発生率は早期開始群と晩期開始群で同様で(2.4 vs 2.2%),死亡や頭蓋内出血の発生にも差はなかった(2.2 vs 2.2%,0.2 vs 0.6%).すなわち早期開始群において,死亡や頭蓋内出血リスクが高まることはなかったが,効果という面では晩期開始群との差はないという結果であった.この開発コホートと検証コホートにおける早期開始効果の差の原因は明らかにはされていない.しかし,少なくともリスクが高まることはなかったということであり,今後の早期開始に関する臨床研究にとって安全性の担保になり得るものと思われる.
ただし,1-2-3-4日ルールに当てはまらない,出血リスクの高い症例を的確に除外することはこれから行うべき作業のように思われる.

<コメント>
最近こそ少しは慣れたが,1-3-6-12日ルールが発表された当初はずいぶんゆっくりだな,大丈夫だろうかという印象をもったものである.
SAMURAI-NVAFとRELAXED研究は本邦における前向き登録研究で,慢性心房細動患者を有する心原性脳塞栓急性期患者を対象としている(登録期間は2011年~2014年と2014年~2016年).これを見ると両研究とも抗凝固薬の投与開始時期は欧米での推奨開始日より早いようである.SAMURAI-NVAFではDOAC服用開始中央値は発症4日後(4分位2~6日),RELAXEDでは脳梗塞体積22.5 ml未満で中央値2.9日後,22.5 ml以上で5.8日後となっている.
現在,日本の脳卒中救急現場の多くでは急性期はヘパリン持続静注を行っているのでDOAC投与が多少遅れても問題になることは少ないかも知れない.しかしながら,持続静注が脳卒中急性期リハビリテーションの大きな妨げになっているのは事実である.さらに,一般に使用されている未分画ヘパリンの心原性脳塞栓の再発予防効果のエビデンスは乏しいように思う.
いずれにしても,心原性脳塞栓患者には出来るだけ早期にDOAC投与を開始すべきであり,たとえ重症脳梗塞であっても,tPAを投与して再開通が得られれば,翌日からDOACを開始したいところである.またDOACの早期投与開始により入院期間も短縮出来る.今回提唱された1-2-3-4日ルールが,より高いエビデンスレベルで確定することを望みたい.
さらに脳出血の患者で,いつ抗凝固薬を開始/再開するかという問題についても前向き研究が待たれるところである.(今村総合病院脳卒中センター 神田直昭)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

田中俊一