中等大以上の転移性脳腫瘍に対するガンマナイフは,そのままの2分割照射と摘出後の1回照射のどちらが良いか:傾向スコアマッチングを用いた比較

公開日:

2022年2月15日  

Staged radiosurgery alone versus postoperative cavity radiosurgery for patients with midsize-to-large brain metastases: a propensity score matching analysis

Author:

Yomo S  et al.

Affiliation:

Division of Radiation Oncology, Aizawa Comprehensive Cancer Center, Aizawa Hospital, Nagano, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34920421]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

中型から大型(>2 cm³)の転移性脳腫瘍に対する定位放射線手術(ガンマナイフ)のモダリティーとして,従来は腫瘍摘出後の腔に照射する方法(C-SRS)が用いられてきた.一方,最近は摘出手術なしの2分割照射法(S-SRS)も登場してきた.どちらが良いのか.相澤病院のYomoらはC-SRS62例とS-SRS110例を対象に,傾向スコア法を用いて,予後と相関し得る13個の共変量をマッチさせて比較した.
S-SRSでは2回照射の間隔は3週間で,合計照射線量(50%)中央値は28 Gy,C-SRSでは手術から照射までの期間中央値は16日で,摘出腔照射線量(55%)中央値は15 Gyであった.

【結論】

S-SRS群とC-SRS群の2年間全生存率は33%と37%,生存期間中央値は14.8ヵ月と17.5ヵ月,2年間中枢神経因性死亡率は11%と9%,中枢神経内遠隔再発率は55%と58%であり,いずれも有意差はなかった.一方,2年間の局所制御失敗率は32%と12%であり,S-SRS群で高く(p=.036),2年間の髄膜播種は9%と25%であり,C-SRS群で高かった(p=.007).

【評価】

かつて,転移性脳腫瘍に対する放射線治療のスタンダードは全脳照射であったが,全脳照射後に急速に進行する認知機能とQOLの低下は大きな問題であった.近年,全脳照射に代わって,定位放射線手術(SRS)が行われるようになってきており(文献1),RCTでも認知機能低下を防ぐ効果が確認されている(文献2).また,転移巣摘出腔へのSRSが局所再発を有意に減少させることも報告されている(文献3).しかしこの方法の問題点としては,摘出手術によって腫瘍の播種を引き起こす可能性が挙げられる.これに対しては,摘出手術前のSRSが播種を抑制させる可能性も示唆されている(文献4).
一方,中等大以上の転移性脳腫瘍に対して,腫瘍を摘出することなく,数回に分けてガンマナイフを照射する寡分割照射も行われているが,患者の負担,拘束時間,入院期間の長さ(2週間前後)などが問題である.
最近,主として日本から,やはり中等大以上の転移性脳腫瘍に対して,腫瘍を摘出することなく,3~4週間空けてガンマナイフを照射する2段階SRSが腫瘍制御において有効であることが報告され(文献5),欧米でも普及しつつあるという(文献6).
本研究は,中等大以上の転移性脳腫瘍に対して,摘出手術なしの2分割SRS(S-SRS)を受けた患者と摘出後腔への1回SRS(C-SRS)を受けた患者を傾向スコア法でマッチさせて比較したものである.その結果,2年間の局所制御失敗率はS-SRS群で高いものの,2年間全生存率,2年間中枢神経因性死亡率は2群間で差がなかった.この結果の臨床的意義はどこにあるのだろうか.両群間で全生存率,中枢神経因性死亡率に差がないのであれば,限られた生命予後の患者に痛い思いをさせたり在院日数が長くなる可能性が高い摘出手術をスキップしてS-SRSを行った方が良いのかも知れない.ただし,本研究のS-SRS群の腫瘍体積中央値は9.0 cm3(IQR:6.1~13.9)であるが,どの大きさまでなら摘出なしでのS-SRSが可能なのか,さらなる解析結果を待ちたい.
今後,S-SRSとC-SRSの優劣に関しては大規模な多施設研究での検討が必要であろう.また,S-SRSとやはり摘出なしのフレームレス寡分割ガンマナイフ照射との比較,摘出手術前のSRSとの比較も興味深い課題である.

<コメント>
日本で最初に稼動したガンマナイフはtype Bであったが,その後type C,Perfexionへとバージョンアップし,2016年秋にはICONが稼動し始めている.Perfexionまでは,頭部のフレーム固定が必要であったために,LINACのように日々照射するような分割照射は困難で,それを補うために,2-3週の間隔を空けた2分割SRSが開発された.本研究は比較的大きな転移性脳腫瘍症例を対象に手術なしの2分割SRSと手術後1回のSRSとの比較を行ったものである.その結果,生存率に差はなかったが,2分割SRSの方が局所再発率が高く,髄膜播種率は低かった.
最近,ICONを使用した5~10分割照射によって,局所制御率の向上が報告され始めており,ガンマナイフ手技の進歩による治療効果の改善が期待される.一方,手術後のSRSでは,髄膜播種の頻度が高くなるという報告が多いため,これに対しては術前SRSを採用する施設もある(文献5).今や,ガンマナイフもICONが導入され,LINACと同様の照射方法が可能となってきているために,脳の定位放射線治療は転換点を迎えているように思われる.これに伴いガンマナイフで治療出来る腫瘍体積の上限も拡大してくると予想されるので,脳外科医の方も最新の情報を手に入れ,従来の摘出後SRSに固執することなく柔軟に対応する必要が出てきている.
(藤元総合病院ガンマナイフセンター 八代一孝)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

八代一孝