慢性硬膜下血腫術後のドレナージを48時間も置く必要はない:デンマークにおけるRCT

公開日:

2022年3月4日  

最終更新日:

2022年3月5日

National randomized clinical trial on subdural drainage time after chronic subdural hematoma evacuation

Author:

Jensen TSR  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Rigshospitalet, Copenhagen, Denmark

⇒ PubMedで読む[PMID:34972091]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫に対する手術には様々なモダリティーがあるが,バーホールによる穿頭洗浄術後に血腫腔へドレーンを挿入するのが最も一般的である.ではドレナージの留置期間は何時間が良いのか.本稿はデンマーク国の4病院で実施されたRCTである.対象は過去2年間に単一穿頭で洗浄術が実施された60歳以上の成人420例.ドレーンは血腫腔に任意の方向で挿入,閉鎖回路収集バッグは鎖骨の高さに固定され,患者は手術直後から歩行可能とした.両側性血腫は18.6%.平均洗浄液量は約900 mL.ドレーン留置期間は,212例は24時間,208例は48時間に割り振られた.割り振り封筒は術後24時間目に病床で開封された.

【結論】

術後90日以内の再手術を一次アウトカム,死亡を二次アウトカムとした.再発は24時間群で14%,48時間群で13%で差は無かった(p=.83).死亡は24時間群で2%,48時間群で4%で差は無かった(p=.24).平均ドレナージ排出量は48時間群で多かった(88 vs 146 mL,p<.001).ドレーン関連合併症率,総入院日数とも2群間で差はなかった(平均7.4 vs 8.4日).ただし,脳外科病床在室日数は24時間群で有意に短かった(平均2.0 vs 2.8日,p<.001).

【評価】

慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術後に,そのまま閉創するより血腫腔(硬膜下)ドレーンを留置しておいた方が再発が少ないとの報告が多い(文献1,2).ドレーン留置期間は48時間あるいは96時間などが提唱されているが(文献1,2,3),留置期間の延長は早期離床の妨げになり,高齢者では廃用による障害をもたらし得る.局所感染のリスクも高まりそうである.また限られた急性期病床の不必要な占有にもつながる.
本研究は,ドレーン留置期間を24時間に短縮することが出来ないのかという臨床上の要請に応えたRCTである.その結果はドレーン留置期間24時間群と48時間群で再発率に差はなかった.一方,24時間群では48時間群に比較して脳外科病棟在室日数も総入院日数も約1日短かった.
明快な結論である.デンマークでは,この研究結果を受けて早速,慢性硬膜下血腫の術後ドレナージの留置期間は24時間となり,結果としてリハビリテーション病棟への早期の患者移動が可能になっていると記載されている.
もし,排液が急に増えて来たり,血性になったときの対応はあらかじめ決めておくべきではあるが,日本でも取り入れられるべき術後管理法と思われる.
なお,本研究ではドレーン排出量は24時間群と比べれば48時間群では有意に多かったが,再発率には差がなかった.同様の関係は48時間と96時間との比較のRCTでも認められるが,やはり再発率には差がない(文献3).このことは,ドレーンを長く留置すれば,排液量は増えるだけで,それが再発を予防するものではないことを示している.

執筆者: 

有田和徳