成人の視床グリオーマではH3K27M変異例の方が予後が良い

公開日:

2022年3月4日  

Adult H3K27M mutated thalamic glioma patients display a better prognosis than unmutated patients

Author:

Grimaldi S  et al.

Affiliation:

Neuro-Oncologie Department, APHM, CHU Timone, University Hospital La Timone, Aix-Marseille University, Marseille, France

⇒ PubMedで読む[PMID:34994963]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2022 Feb
巻数:156(3)
開始ページ:615

【背景】

視床神経膠腫は成人では脳腫瘍の1%,小児では5%を占める稀な腫瘍である.小児や若年成人の脳幹・視床など脳正中部のびまん性神経膠腫(DMG)でH3K27M変異が認められるものは予後不良でWHOグレード4に指定されている.一方,成人における視床神経膠腫の臨床像とH3K27M変異が予後に及ぼす影響は充分には解明されていない.エクス・マルセイユ大学のチームは自験の成人視床神経膠腫38例(中央値57歳,24~80歳,KPS中央値70%)を後方視的に解析した.2/3の症例でMRI上の壊死像が認められた.両側性病変は4例.造影部分の体積中央値は14 cm³であった.2例が部分摘出,残りは生検術を受けた.

【結論】

18例が化学療法のみ(16例がアルキル化剤),19例が化学療法と放射線治療を受けた.全体のPFS中央値は7.1ヵ月(CI:3.7~10.5),OS中央値は15.6ヵ月(CI:11.7~19.6)であった.20例でH3K27M変異の検索が行われ,変異陽性の4例では陰性の16例よりOSが長かった(20.1 vs 6.8ヵ月).多変量解析では長いOSと有意に相関していたのは小さな腫瘍体積とH3K27M変異であった(p<.05).
全体で2年以上生存した長期生存は7例であった.長期生存と有意に相関した因子は若年,認知障害の不在,低いステロイド使用量,H3K27M変異の存在であった.

【評価】

フランスの単一施設で13年間(2002~2015年)に経験した成人の視床神経膠腫の解析である.症例数が38例と少ないのは,成人脳腫瘍ではかなり稀なカテゴリーであることを考慮すれば致し方ないかも知れない.分子遺伝学的な特徴としては,H3K27M変異は20%(4/20例),IDH変異は0%(0/29例),TERT変異は69%(13/19例),EGFRの増幅は50%(14/28)で認められた.組織学的にはWHOグレード2:13%,2:13%,4:74%であり,Ki67は中央値25%であった.
WHO2016から新規のentityとして登場したびまん性中心性神経膠腫(DMG)では,H3K27の変異が高率に認められる.この変異は遺伝子抑制ヒストン修飾であるH3K27のトリメチル化(H3K27me3)を著明に減少させる(欠失)ことを通じて腫瘍化に関与することが示唆されている(文献1,2).DMGにおけるH3K27M変異は小児では50-80%の頻度で認められ,成人では30~60%で主として若年成人に認められている.びまん性内在性橋神経膠腫(DIPG)を含む小児のDMGのうち,H3K27変異型は野生型に比較して予後は明らかに不良である(文献3,4).
このことは,成人視床神経膠腫でもあてはまるのか.2021年に本邦から発表された25例の成人視床神経膠腫の解析ではH3K27M変異群のOSは非変異群に比較して短い傾向であった(文献5).やはり成人視床神経膠腫の病態に関する25報617例のメタアナリシスでは,H3K27M変異の検索がされた141例中,変異陽性は82例(58%)であり,H3K27M変異陽性例は陰性例に比してOSが短かった(p=.017)(文献6).
しかし,本シリーズはH3K27M変異群4例と非変異群16例とわずかな症例であるが,提示されたKaplan-Meier曲線を見ると明らかにH3K27M変異群のOSが長く,上記2報告と矛盾するものになっている.一方,本邦のAiharaらの高悪性度の視床神経膠腫の解析では約半数にH3K27M変異が認められる事,H3K27M変異は専ら50歳未満の若年成人にのみ認められた事,同変異を有する視床神経膠腫と小児DIPGはメチル化プロファイルが似通っている事が明らかになった.しかし,彼らのシリーズでは,DIPGとは異なりH3K27M変異は必ずしも予後不良の因子ではなかった(文献7,8).また,北京天壇病院のFengらも,成人例における視床神経膠腫では脳幹神経膠腫と異なり,H3K27M変異の存在は,野生型と比較した時の予後不良とは相関しないことを報告している(文献9).
本論文も含めて,成人視床神経膠腫においてH3K27M変異が予後に及ぼす影響が小児例と異なるのには,統計パワーの問題以外に,両者の間に生物学的性質を左右する何らかの分子学的な違いがありそうであり,興味深い.
いずれにしても,これまでの報告は症例数が少なく,前向き研究ではなく,治療方法も症例ごとで大きく異なっているので,視床神経膠腫におけるH3K27M変異が予後に与える影響についてはまだ確定されていないと言うべきであろう.単一のプロトコールで治療された大規模前向きコホートのデータが出てくるのを待ちたい.

<コメント>
H3K27M変異を有するびまん性中心性神経膠腫(DMG)のうち,従来diffuse intrinsic pontine gliomaと呼ばれた脳幹部に発生する腫瘍においては,同変異を有することが予後不良と関連していることが知られるが,それ以外の視床や脊髄におけるH3K27M変異と予後の関係は,これまで発表された研究によって結果も異なり,いまだ見解は定まっていない.これは,施設により患者年齢の相違や,治療方針の相違などがあることにより,登録される患者層が異なるなど,バイアスの存在も関与しているであろう.本研究においても,H3K27M変異は4症例のみであり,エビデンスレベルとしては高いとは言い難い内容である.脳幹,視床,脊髄それぞれにおいて変異を有さない腫瘍の性質は異なっており,H3K27M変異を有するDMGとはcell-of-originも異なる腫瘍である可能性もある.変異の有無で予後の違いを比較することよりも,治療反応性など,それぞれの腫瘍の性質により焦点をあてて検討するほうが意義がある可能性もある.(熊本大学脳神経外科 武笠晃丈)

執筆者: 

有田和徳