パーキンソン病に対する脳深部刺激(DBS)では,STNの前方への刺激の方が歩容を改善させる効果が高い:ミシガン大学の40例

公開日:

2025年5月14日  

Enhancement of gait improvement in Parkinson disease with anterior subthalamic nucleus deep brain stimulation

Author:

Zak JR  et al.

Affiliation:

Department of Biomedical Engineering, Bucknell University, Lewisburg, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40117663]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

視床下核(STN)に対する脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病の運動症状に対する有効な治療として普及している.しかし,画一的な刺激ターゲティングでは,患者毎で異なるパーキンソン病の運動症状に対するDBSとしては充分ではない可能性がある.
ミシガン大学脳外科のチームは,電気刺激による賦活化組織体積(VTA)という概念を用いて,STN内あるいは周辺の部位毎のDBSによるVTAと運動機能改善との関係を解析し,歩行障害の改善のための最適な刺激部位を求めた.
対象は両側STNに対するDBSを受けた40例.刺激の効果は非刺激時と刺激時のMDS-UPDRS(Part III)スコアで評価した.

【結論】

STN前部の活性化と歩行の改善(p =.03)ならびに総合的歩行改善(p =.01)との間に有意の相関が認められた.
STN後部刺激群と比較して,STN前部刺激群ではすくみ足の改善度(p =.03)および総合的な歩行の改善度(p =.02)が高かった.STNの外部領域の刺激に関しても,前部の外部刺激とすくみ足の改善との間に有意の相関があった(p =.02).一方で電極位置と歩行症状の改善に相関は認められなかった.
本研究は,VTAモデルの有用性を示すとともに,患者および症状ごとの個別化ターゲティングの重要性を示しており,STNの前方領域へのDBSは,特に歩行障害が主症状の患者にとって有益な可能性がある.

【評価】

パーキンソン病は,運動症状(振戦,筋固縮,寡動など)および非運動症状(認知機能障害,うつ,不眠,疲労など)を特徴とする神経変性疾患である(文献1).パーキンソン病患者では歩行障害(すくみ足,姿勢不安定,転倒など)が頻繁にみられ,生活の質を大きく低下させる(文献2).歩行障害は,小脳-脳幹-線条体-皮質系といった筋運動を制御する神経ネットワーク間の相互作用の障害に起因すると考えられているが,歩行障害に関連するネットワークを個別に特定することは困難である(文献3).
視床下核(STN)および淡蒼球内節(GPi)はパーキンソン病における脳深部刺激(DBS)の標準的ターゲットであり,刺激によって同様の運動機能改善効果が得られる(文献4).一方STN-DBSでは,黒質網様部(SNr),脚橋被蓋核(PPN),不確帯(ZI),Forel野など,STN周囲の歩行障害改善に関わるターゲットに刺激が広がることが知られている(文献5,6,7).
本研究では賦活化組織体積(VTA)モデルという概念を用いて,パーキンソン病の歩行障害改善に向けたSTNとその周囲の最適な刺激領域を求めたものである.その結果,STN前部刺激がMDS-UPDRSの歩行項目および総合的歩行スコアの改善と関連していることを確認した.また,STN前部刺激は,STN後部刺激と比較して,すくみ足および総合的歩行スコアの改善に強く関連していた.
一方で,この領域の刺激では稀ながら,無動や歩行の悪化(文献8),音韻的言語流暢性の低下(文献9),うつ病の既往歴を持つ患者の神経心理学的アウトカムの悪化(文献10)などいくつかの副作用も報告されている.ただし本研究のシリーズでは,追跡評価時点での副作用の発生率は前方刺激群と後方刺激群で差はなかった.このような結果の不一致について著者らは,刺激位置の測定方法の違い(電極位置ベースかVTAベースか)によるものかもしれないと述べている.
今後,STN前方刺激とすくみ足や総合的な歩行の改善が,STN内あるいは外部のどのような機能あるいはどのような構造と関連するのかが明らかになることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳

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