公開日:
2025年5月16日Cortical nonenhancing tumor infiltration: a predictive imaging biomarker for IDH-mutant glioma
Author:
Wang X et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, Chinaジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2025 Apr |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
術前MRIにおけるT2-FLAIRミスマッチ(T2FMM)がIDH変異型グリオーマを高い特異性で予測することが報告されている(文献1,2).しかし,IDH変異型グリオーマの中にはT2FMMを呈さないものも多く,その感度の低さが問題となっていた(文献3,4).北京天壇病院(BTH)のWangらはIDH変異型グリオーマでは皮質浸潤部の中に造影されない部分(CONTINサイン)が多いことに注目してきた.本稿は2019年からの3年間にBTHで治療した新規のびまん性グリオーマ526例(平均57歳)を対象とした,3TMRI上でのCONTINサインの意義についての解析である.304例がIDH変異型で,222例はIDH野生型であった.
【結論】
BTH症例におけるCONTINサインの頻度はIDH変異型で91.1%と,IDH野生型の23.4%より有意に高かった.検証群I(UCSFの501例)でもIDH変異型で85.4%と,IDH野生型の14.6%より有意に高かった.BTH群におけるCONTINサインの感度,特異度,陽性適中率,陰性適中率は90%,77%,84%,85%で,T2FMMサインの27%,96%,90%,49%と比較して感度と陰性適中率において優れていた.性・年齢,腫瘍全体の造影効果の有無,壊死,のう胞,T2FMMサイン,CONTINサインなどを統合した決定木モデルは高い精度でIDH変異を予想した(AUC:0.925).
【評価】
T2-FLAIRミスマッチ・サイン(T2FMM)は,びまん性グリオーマの術前MRIで認められる腫瘍部分がT2高信号でありながらFLAIRで相対的に低信号を呈することで,成人のIDH変異型グリオーマの特異的なバイオマーカーとして認知されているが(文献1),その感度は必ずしも十分ではなく,評価者間の一致度は低いという問題点があった(文献3,4).
北京の天壇病院(Tiantan Hospital)脳外科はびまん性グリオーマの皮質浸潤部の中の造影されない部分(cortical nonenhancing tumor infiltration=CONTINサイン)に注目して,自験のびまん性グリオーマ526例を対象に,このCONTINサインの意義を解析した.その結果,CONTINサインがIDH変異びまん性グリオーマの良好なバイオマーカーであることを明らかにした.すなわち,対象例全体のIDH変異型グリオーマの診断におけるCONTINサインは感度90%,特異度77%であったが,元来造影効果を有する腫瘍304例では感度92%,特異度83%と,共に上昇していた.一方,従来の報告通り,T2FMMサインの感度は27%と低いが,特異度のみに限れば96%とCONTINサインを少し上回っていた.
CONTINサインの問題点としては,皮質病変が腫瘍周囲浮腫であるのか腫瘍そのものの進展であるのか判別が困難なケースがあることで,著者らは,そのようなケースはCONTINサインなしとして扱っているとのことである.本稿は,何故CONTINサインがIDH変異型グリオーマで高頻度に認められるのかについては“intratumoral heterogeneity"との関連を示唆するのみで,組織学的な背景等は明らかにしていない.今後の研究の進歩に期待したい.
最近の研究では,特にIDH変異型グリオーマでは肉眼的全摘出(GTR)と予後が強く相関していることが報告されている(文献5,6,7).一方で,vorasidenibなどの変異型IDH標的治療も導入されつつある(文献8).いずれにせよ,手術前にびまん性グリオーマのIDH変異の有無を予測することの意義は益々高まっている.著者らは,感度の高いこのCONTINサイン,特異度の高いT2FMMサインと,さらにその他の因子を組み合わせた決定木モデルを提唱しており,高い精度を報告している(AUC:0.925).他の大規模コホートでの検証を待ちたい.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Patel SH, et al. T2-FLAIR mismatch, an imaging biomarker for IDH and 1p/19q status in Lower-grade gliomas: a TCGA/TCIA project. Clin Cancer Res 23:6078–6085, 2017
- 2) Patel SH, et al. Fluid attenuation in non-contrast-enhancing tumor (nCET): an MRI Marker for Isocitrate Dehydrogenase (IDH) mutation in Glioblastoma. J Neurooncol. 152(3):523-531, 2021
- 3) Broen MPG, et al. The T2-FLAIR mismatch sign as an imaging marker for non-enhancing IDHmutant, 1p/19q-intact lower-grade glioma: a validation study. Neuro Oncol 20:1393–1399, 2018
- 4) Jain R, et al. “Real world” use of a highly reliable imaging sign: T2-FLAIR mismatch for identification of IDH mutant astrocytomas. Neuro Oncol 22:936–943, 2020
- 5) Jiang H, et al. Proliferation-dominant high-grade astrocytoma: survival benefit associated with extensive resection of FLAIR abnormality region. J Neurosurg. 132(4): 998-1005, 2019
- 6) Wijnenga MMJ, et al. The impact of surgery in molecularly defined low-grade glioma: an integrated clinical, radiological, and molecular analysis. NeuroOncol. 20(1): 103-112, 2018
- 7) Rossi M, et al. Association of supratotal resection with progression-free survival, malignant transformation, and overall survival in lower-grade gliomas. Neuro Oncol. 23(5): 812-826, 2021
- 8) Mellinghoff IK, et al. Vorasidenib in IDH1- or IDH2-Mutant Low-Grade Glioma. N Engl J Med. 389(7):589-601, 2023
参考サマリー
- 1) 通常のT2-FLAIRミスマッチではなくスーパーT2-FLAIRミスマッチがIDH変異型星細胞腫の予後良好のサインである
- 2) 膠芽腫でもMRI非造影部分におけるT2-FLAIRミスマッチでIDH変異型が診断出来る
- 3) T2強調像での腫瘍体積に比べてT1強調像での腫瘍体積が小さなIDH変異型星細胞腫では摘出率が低い
- 4) 術前MRIに基づく機械学習によるグリオーマの分子マーカー予測の精度:44報告のメタアナリシス
- 5) 変異型IDH1/2阻害薬Vorasidenibはグレード2成人グリオーマのPFSを有意に延長する:INDIGO試験
- 6) 組織学的膠芽腫と分子学的膠芽腫(IDHワイルドタイプの星細胞腫)の臨床的違い
- 7) 5ALA蛍光陽性のWHOグレード2のグリオーマはCD34陽性微小血管が豊富で予後が悪い
- 8) グリオーマ悪性度分類はMRIテクスチャ解析のみで可能:脳腫瘍画像診断界の「アルファー碁」か
- 9) Radiomicsで1p/19q co-deletionを予測する
- 10) IDH変異グリオーマにおけるCDKN2Aホモ接合性欠失が予後に及ぼす影響