膠芽腫に対する摘出手術時の脳室内進入は生命予後不良や遠隔再発と関連する:ピッツバーグ大学脳外科の282例

公開日:

2025年6月20日  

最終更新日:

2025年6月21日

Ventricular Entry During Glioblastoma Resection is Associated With Reduced Survival and Increased Risk of Distant Recurrence

Author:

Gecici NN  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40178259]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳室下帯(SVZ)への膠芽腫の浸潤は腫瘍のアグレッシブさと関連することが知られている(文献1,2).膠芽腫の手術ではこのSVZの腫瘍を摘出する(当然,脳室に進入するリスクが上がる)のが良いのか,脳室への進入を避けるべきかについては議論が続いている(文献3-7).
ピッツバーグ大学脳外科は,2013年からの10年間に手術した膠芽腫282例を後方視的に解析して,手術による脳室内進入(VE)が予後に与える影響を検討した.VEは108例(38.3%)で生じていた.VE症例では腫瘍がSVZに接している症例が多かった(p <.001).VE症例は,非VE症例に比べて,PFS,OSが短かった(p =.003と<.001).

【結論】

年齢,MGMTプロモーターメチル化,IDH変異,腫瘍摘出率などの既知の予後関連因子や腫瘍のSVZへの接触の有無を調整の後,VEは低いOSの独立した予測因子であった(HR:1.6,p =.001).VEとなった症例のみが,手術後水頭症を発症し(1.4%,p =.021),脳室ドレナージ術を要した(2.1%,p =.003).遠隔脳実質内再発や髄膜播種はVE群で多かった(63.9% vs 39.7%,p <.001と23.1% vs 13.2%,p =.035).
傾向スコア法に基づく多変量ロジスティック解析でもVEは遠隔再発/髄膜播種の独立予測因子であった(OR:4.11,p =.006).

【評価】

本研究はピッツバーグ大学脳外科の膠芽腫282例を対象とした後方視的研究であるが,年齢,MGMTプロモーターメチル化,IDH変異,腫瘍摘出率などの既知の予後関連因子や腫瘍のSVZ(腫瘍の増殖・再発の可能性が高いと考えられる領域)への接触・浸潤の有無などを調整後の解析では,脳室に進入(開放)しない方が手術合併症が少なく,遠隔再発/髄膜播種が少なく,OS,PFSが良好であることを明らかにしている.
特に興味深いのは,SVZへの接触のある腫瘍164症例では,脳室進入を伴う症例(95例)のOSはVEを伴わない症例(69例)より有意に短かったことである(12ヵ月 vs 17ヵ月,p <.036).VEが予後不良を引き起こす機序は未解明だが,遠隔脳実質内再発や髄膜播種との関連が考えられる.これについては,腫瘍細胞が髄液によって拡散され易くなるというのがもっとも単純な推定であろう.一方,膠芽腫細胞を上衣細胞と共培養すると浸潤能が有意に低下することが報告されている(文献8).脳室進入(開放)すなわち上衣細胞の除去は局所の膠芽腫細胞の浸潤能を高めるのかも知れない.また髄液の成分そのものがSVZにある膠芽腫細胞の転写に影響し悪性化を促進する可能性も示唆されている(文献9,10).
本研究の結果からは,膠芽腫が脳室壁に接している症例でも,脳室が開かないような配慮が必要で,場合によっては全摘出をあきらめなければならないということになるが,本当にそうなのか,多施設症例での解析やSVZに接する膠芽腫症例のみを対象とした前向き研究で本研究の発見を検証すべきである.またVEがなぜ遠隔脳実質内再発や髄膜播種をもたらすのかに関しては,再発や播種巣の分子遺伝学的な検索や原発巣との比較が必要である.

執筆者: 

有田和徳

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