大きな転移性脳腫瘍に対するネオアジュバント治療としての定位手術的照射(SRS)の有効性:多施設第2相試験

公開日:

2025年6月20日  

最終更新日:

2025年6月25日

Neoadjuvant Stereotactic Radiosurgery for Large Brain Metastases: An International, Multicenter, Single-Arm Phase II Trial

Author:

MEng RH  et al.

Affiliation:

Radiation Medicine Program, Princess Margaret Cancer Centre, University Health Network, Toronto, Ontario, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:40227031]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

転移性脳腫瘍摘出前のネオアジュバント治療としての定位手術的照射(SRS)の有用性は報告されているが(文献1),大きな転移巣では,高線量照射による脳浮腫や放射線壊死の発生が危惧されるところである.
本稿は,カナダとドイツの3施設で行われた,大型の転移性脳腫瘍に対する腫瘍摘出前の単回照射SRSの有用性に関する多施設第2相試験の結果である.腫瘍径20 mm以上(平均32±5 mm)の転移性脳腫瘍を有する35例(平均58.9±12.9歳)が対象.原発腫瘍は肺40%,消化管20%,乳腺8.6%などで,局在は85.7%が天幕上であった.SRS機種はガンマナイフ74.3%,サイバーナイフ25.7%であった.

【結論】

平均SRS線量は16.2 Gy(2 mmマージン).追跡期間中央値は11.8ヵ月.
SRSから手術までの期間は中央値3日(IQR:1-21)で,摘出度は全摘出91%,亜全摘出9%であった.
主要評価項目のGrade 2以上の放射線壊死を発症した患者はいなかった.局所制御不良を経験した患者は6名で,1年後の局所制御不良発生率は18.0%であった.
1名が典型的な軟髄膜播種病変を発症し,1年発生率は2.9%であった.
1名が硬膜病変を発症し,1年発生率は3.2%であった.
全生存期間の中央値は13.8ヵ月(95% CI:8.15–22.4),2年後の頭蓋内無進行生存率は29.5%であった.

【評価】

大型の転移性脳腫瘍(直径2 cm以上または容積4 cc以上)に対しては,手術後のアジュバントSRSによって,SRS単独よりも腫瘍制御率および生存率が向上することが後方視研究により示されている(文献2).さらにランダム化第3相試験では,完全切除後の腫瘍に対しても,アジュバントSRSは手術単独より腫瘍制御率が高く,手術後全脳照射よりも認知機能障害の発生率が低いことが示されている(文献3,4).
しかし,腫瘍摘出後のアジュバントSRSでは,放射線壊死の発生率が18〜30%と高いことが課題となっている(文献5,6,7).その要因として,標的領域の正確な設定が困難であるため,正常脳組織への放射線曝露が増加することが考えられる.さらに標的容積の適切な設定が困難なことによって,全脳照射に比べて局所制御不良のリスクが高まる可能性や髄膜播種のリスクも指摘されている(文献2,3,7,8).
一方,近年大型の転移性脳腫瘍に対して,腫瘍摘出よりもSRSを先行させるネオアジュバント治療が症候性放射線壊死や軟髄膜播種の発生を抑制することが報告されているが(文献1,9,10),これらの研究は後ろ向き研究であった.
本稿はカナダとドイツの3施設で実施された大型の転移性脳腫瘍に対するネオアジュバントSRSの前向き試験の結果である.その結果,主要評価項目のGrade 2以上の放射線壊死を発症した患者はいなかった.また,従来アジュバントSRS後の硬膜病変(pachymeningeal disease)の発生率は34%に達すると報告されており(文献11),手術時に播種された腫瘍細胞がアジュバントSRSの範囲を超えてしまうことが原因と考えられている.本試験では髄膜播種や硬膜病変の1年発生率は共に約3%と低く,この点でもネオアジュバントSRSの有用性を示すものとなっている.
しかし,本試験における1年後の局所制御不良率は18%で,従来報告されている単回ネオアジュバントSRSの後方視研究での局所制御不良率10.5-20.8%と比べてもやや高かった.
一方,やはり後方視研究であるが,寡分割のネオアジュバントSRSでは局所制御不良率は5-7.5%と低く(文献12),寡分割照射の有用性を示唆するものとなっている.現在進行中の寡分割のネオアジュバントSRSの二つの試験(フランスのSTEP試験,NCT04503772と米国のNCT05267587)の結果を待ちたい.

<コメント>
術後STIは標的病変の同定に不確実性が生じる,照射体積が大きくなるといった技術的問題を包含しており,髄膜転移(LM)の合併リスクが高くなる懸念が以前から指摘されている(文献13).脳転移摘出術後のLMリスクに関するメタアナリシスでは,乳癌原発,多発脳転移,大きな腫瘍体積,テント下,髄液腔に近接,術中脳室との交通,非全摘出,piecemeal摘出,術後STIがリスク因子として指摘されている(文献14).近年はLMリスクを低減させる新たなパラダイムとして術前STIのSterilization効果(残存腫瘍細胞はすでに不活化されており再発に至らない)に注目が集まっており,複数のメタアナリシスでLMリスクが有意に低減されることが示されている(文献15,16).術前STIと術後STIを直接比較するRCTが現在複数進行しており,今後数年以内にその最終的な結論が得られるはずである.
本研究は術前単回定位照射(SRS)のシングルアーム研究であり,主要評価項目はGrade 2以上の放射線壊死(RN)とされ,その発生率はゼロであった.一方,1年局所再発率は18%とやや高い結果であった.この結果を換言すれば,線量不足と摘出不足の両者が要因であったと言える.昨年報告された術前SRS(15 Gy)と術前寡分割定位照射(FSRT)(24 Gy/3分割)の後方視的コホート研究でも術前SRSで高率に局所再発が生じていた(2-year:19.8% vs 3.3%;p =.003)(文献17).摘出術で残存が生じるとすれば腫瘍の辺縁部分であり,その部分は相対的に照射線量が低い.術後残存病変が生じることを前提とすれば,14-15 Gy程度の辺縁線量では長期制御を得るには不十分ということを示唆している.本研究ではLMの発生率は期待されたとおり十分低かったことから,術前STIの有効性を追認する一方で,照射線量の上乗せや寡分割照射など照射方法の最適化による治療成績向上の余地が残されていることが示された点は意義深い.(相澤病院ガンマナイフセンター 四方聖二)

執筆者: 

有田和徳

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