特発性頭蓋内圧亢進症に対するGLP-1作動薬の効果:5,750例の解析

公開日:

2025年7月11日  

Impact of GLP-1 receptor agonists on idiopathic intracranial hypertension clinical and neurosurgical outcomes: a propensity-matched multi-institutional cohort study

Author:

O'Leary S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Texas Medical Branch, Galveston, TX, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40344770]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)と肥満には強い相関が認められる(文献1-3).逆に,IIH患者の体重減少は各種IIH症状の改善や消失をもたらす(文献4,5).
GLP-1作動薬は血糖依存的にインスリン分泌を促進するため,糖尿病患者の血糖コントロールのために広く用いられている.また,食欲抑制-体重減少作用もあるので肥満症治療薬としても承認されている.
本稿は,米国を中心とする94の医療機関から提供される電子カルテデータベースTriNetXに登録されたIIH患者のうち,傾向スコアマッチングでベースライン特性を調整して抽出したGLP-1作動薬使用群5,750例と非使用群4,968例の比較である.

【結論】

経過観察1年目では,GLP-1群で1.635 kg/m²のBMI低下が認められ(p <.001),対照群の低下幅0.758 kg/m²よりも大きかった.
経過観察6ヵ月目で,GLP-1群では以下の項目において対照群と比較してリスクが低かった:新規頭痛発症(OR 0.660),視覚障害(OR 0.423),認知障害(OR 0.368)(いずれもp <.001).このリスク差は1年後も持続した.
経過観察1年目までのシャント実施率もGLP-1群で低かった(OR 0.375,p =.047).死亡リスクもGLP-1群で,経過観察6ヵ月目,1年目で著明に低かった(OR 0.060とOR 0.115,ともにp <.001).

【評価】

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)には中年女性の肥満患者が多いが,本研究対象でも平均年齢44歳,女性が88%,平均BMIは44であった.日本ではBMI40越えの人は見たことがないが,米国の女性の平均BMIは約30なので, 40越えの人も一定数おり, 特にIIH患者では多いのであろう.一方GLP-1作動薬には,膵における血糖依存的なインスリン分泌促進作用(文献6,7)と同時に,脳の摂食中枢の抑制を通じた体重減少作用も認められている(文献8,9).本研究でもGLP-1作動薬使用群のBMI低下幅は,対照群よりも大きかった.対照群でも経過観察6ヵ月,1年でBMIが低下しているのは,いずれの群のIIH患者においても,積極的な体重コントロールが推奨されているためと思われる.
さらにGLP-1作動薬使用群では,経過観察6ヵ月までの新規頭痛,視覚障害,認知障害,死亡のリスクが対照群と比べて有意に低かった(p <.001).1年間のシャント留置の必要性も有意に減少していた.
体重減少がIIH患者の諸症状を改善させることは既に報告されている(文献4,5).体重減少以外で,IIHの諸症状に対するGLP-1作動薬投与の効果としては,脈絡叢のGLP-1受容体を介した脳脊髄液産生抑制,グリア細胞を介した抗炎症・神経保護作用などが想定されている.こうした仮説を証明するためにも,体重減少が無かったGLP-1作動薬投与患者でもIIHの諸症状の発生率が低下するのかどうかを明らかにする必要性があろう.大規模なRCTによる解析が待たれる.

執筆者: 

有田和徳