公開日:
2025年11月11日Fiber orientation distribution for detecting skull base tumor histopathology: technical note and retrospective 81-case series
Author:
Jacquesson T et al.Affiliation:
CREATIS Laboratory CNRS UMR5220, University of Lyon, Lyon, France| ジャーナル名: | J Neurosurg. |
|---|---|
| 発行年月: | 2025 Jun |
| 巻数: | 143(5) |
| 開始ページ: | 1398 |
【背景】
従来のMRI拡散テンソルイメージング(DTI)はボクセル内の交差線維を分離して表現できず,ボクセルを楕円体と見なし,複数の線維を単一ベクトルとして表現していた.このため,複数の線維方向が絡まって走向している実際の大脳白質の線維走向を正確に推定することが困難であった.しかし近年開発された線維走向分布解析(FOD)は,ボクセル内に存在する交差線維を分離して評価することが可能になっている.本稿は,このFODの技術を応用した頭蓋底腫瘍の術前診断の可能性を検討したものである.FODにおける腫瘍内線維の走行パターンは,放射状遠心型(髄膜腫),層状巻き付き型(神経鞘腫),無秩序(類上皮腫)の3種類に分類した.
【結論】
対象は81例の頭蓋底腫瘍(前庭神経鞘腫44例,髄膜腫28例,類上皮腫9例).FOD拡散マップをT2強調像に重ね合わせたFOD-T2像とT1像を3名の検者が読影し腫瘍内線維走行パターン(腫瘍の種類)を診断した.3名の検者全体の正診率は80.7%であり,検者間の一致度は高かった(κ係数 =0.765, p <.0001).正診率は検者の放射線学的専門性に応じて上昇し,検者1(低位の専門性)72.8%,検者2(中等度の専門性)77.8%,検者3(高度の専門性)91.4%であった.腫瘍ごとの正診率は神経鞘腫で最も高く(88.6%),次いで髄膜腫(72.6%),類上皮腫(66.7%)であった.
【評価】
拡散強調MRIを用いた大脳白質の線維走向の分析では従来,拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging:DTI)が用いられてきたが,DTIは単一ボクセル内の交差線維を別々に表現できず,楕円体を構成するベクトルとして表現していた.このためDTIでは,実際には複数の線維方向が絡まって走向している白質の線維走向を正確に推定できないという問題が指摘されていた.これに対して,近年開発されたfixel-based analysis(FBA)という手法で作成された線維走向分布解析(fibre orientation distribution:FOD)は,ボクセル内に存在する交差線維を分離して評価することができるようになった(文献1-4).これによりFODでは,DTIと比較してより正確な白質線維のセグメンテーションや脳神経トラッキングが可能となった(文献5-7).
本稿の著者らもこのFODを用い,頭蓋底腫瘍によって圧排され偏位した脳神経のトラッキングを行ってきたが(文献8),その過程で,腫瘍内線維のFOD走向に病理組織型に応じた特有のパターンがあることに気づいたという.すなわち,上記の放射状遠心型(髄膜腫),層状巻き付き型(神経鞘腫),無秩序(類上皮腫)の3パターンである.本研究では,この3パターンの判別を用いた病理組織型の推定が高い精度で可能であることを示している.
ただし,本研究で取り上げた頭蓋底部腫瘍(前庭神経鞘腫,髄膜腫,類上皮腫)は,CTや従来型のMRI所見を総合することによって,多くの場合術前に病理組織型の推定が可能である.問題は,従来型の画像所見の解析にこのFOD解析を加えることによって腫瘍の術前正診率が向上するかどうかである.今後の検討に期待したい.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Tournier JD, et al. Direct estimation of the fiber orientation density function from diffusion-weighted MRI data using spherical deconvolution. Neuroimage. 23(3):1176-1185, 2004
- 2) Tournier JD, et al. Resolving crossing fibres using constrained spherical deconvolution: validation using diffusion-weighted imaging phantom data. Neuroimage. 42(2):617-625, 2008
- 3) Farquharson S, et al. White matter fiber tractography: why we need to move beyond DTI. J Neurosurg. 118(6):1367-1377, 2013
- 4) 内田航:拡散MRI を用いた白質微細構造モデリングの発展.日本生物学的精神医学会誌36(1):22‑26, 2025
- 5) Kammen A, et al. Automated retinofugal visual pathway reconstruction with multi-shell HARDI and FOD-based analysis. Neuroimage. 125:767-779, 2016
- 6) Wasserthal J, et al. Combined tract segmentation and orientation mapping for bundlespecific tractography. Med Image Anal. 58: 101559, 2019
- 7) Zeng Q, et al. Automated facial-vestibulocochlear nerve complex identification based on data-driven tractography clustering. NMR Biomed. 34(12): e4607, 2021
- 8) Jacquesson T, et al. Probabilistic tractography to predict the position of cranial nerves displaced by skull base tumors: value for surgical strategy through a case series of 62 patients. Neurosurgery. 85(1):E125-E136, 2019
参考サマリー
- 1) 大きな小脳橋角部髄膜腫を無理して全摘出しなくても良い:エクス-マルセイユ大学の50例
- 2) 頭蓋内類上皮腫の臨床像と術後長期経過:UCSFの146例
- 3) 前方経錐体法(ATPA)による錐体斜台部腫瘍の摘出:慶應義塾大学の33年間274例の経験から何を学ぶか
- 4) 三叉神経痛を呈する錐体斜台部髄膜腫には摘出術かガンマナイフか:138例のメタアナリシス
- 5) 同じKoosグレード4の前庭神経鞘腫でも腹側成分の大きいものでは術後顔面神経麻痺が出やすい:神戸大学
- 6) 膠芽腫でもMRI非造影部分におけるT2-FLAIRミスマッチでIDH変異型が診断出来る
- 7) 術前MRIに基づく機械学習によるグリオーマの分子マーカー予測の精度:44報告のメタアナリシス
- 8) グリオーマ悪性度分類はMRIテクスチャ解析のみで可能:脳腫瘍画像診断界の「アルファー碁」か
- 9) WHOグレード2/3髄膜腫の術前予測:MEN-CCVolスコアの提案
- 10) IDH変異型 グリオーマでは皮質浸潤部に造影されない部分がある:北京天壇病院から新規鑑別方法の提案(CONTINサイン)