未破裂脳動脈瘤の破裂予測にPHASESとELAPSSは有用:10年目以降は破裂しない:ウィーン大学の40年間661例の解析結果から

公開日:

2025年11月12日  

最終更新日:

2025年11月12日

Conservative management of 661 patients with unruptured intracranial aneurysms: an observational study over 4 decades

Author:

Dodier P  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical University of Vienna, Austria

⇒ PubMedで読む[PMID:40446344]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 May
巻数:143(3)
開始ページ:641

【背景】

未破裂脳動脈瘤の破裂リスクの正確な予測は未だに困難である.ウィーン大学脳外科は,1984年から2020年にかけて,保存的に管理された未破裂脳動脈瘤767個を有する661例を解析し,破裂率とリスク因子を求めた.対象患者にくも膜下出血の既往はなかった.
経過観察期間中央値は4.1年(0-33.7年)であった.42%の患者において観察期間は5年以上であった.68%の患者は2009年以降が初診であった.保存的治療が選択された理由は患者の希望(40%),年齢(30%),合併症(28%)であった.
保存的観察期間中,23例(3.5%,23/661)が破裂し,年間破裂率は0.6%であった.

【結論】

破裂をきたした患者の死亡率は96%(22/23)であった.保存的観察期間中の全体の動脈瘤関連死亡率は4.4%であった.後方循環動脈瘤を有する患者の死亡率は,前方循環動脈瘤患者よりも有意に高かった(13.4% vs 2.7%,p <.001).
破裂例の87%は診断後5年以内に破裂しており,10年以降には1例もなかった.動脈瘤径,PHASESスコアおよびELAPSSスコアはいずれも破裂の独立した予測因子であった.PHASESスコアが8未満,あるいはELAPSSスコアが15未満の患者では,動脈瘤関連死および動脈瘤破裂はいずれも発生しなかった.

【評価】

未破裂脳動脈瘤661例からなる本研究コホートでは,観察期間中に3.5%が破裂し,年間出血率は0.6%と算出された.この出血率は既報の0.6〜2%の範囲の下限に相当している(文献1-5).
既報では年齢,動脈瘤径,局在が主要な破裂リスク因子として挙げられており(文献4-7),これらをもとにPHASESスコアやELAPSSスコアが開発された(文献8,9).PHASESスコアは高血圧,年齢,動脈瘤径,くも膜下出血の既往,局在,人種差から5年破裂リスクを推定し,ELAPSSスコアはくも膜下出血の既往,局在,年齢,人種差,径と形状から増大リスクを推定している(文献8,9).本研究はくも膜下出血の既往を有さない未破裂動脈瘤のみを対象としているが,PHASESおよびELAPSSスコア上昇が破裂の独立予測因子であることを確認した.さらにPHASES ≥8,ELAPSS ≥15で破裂リスクが急増するという原著論文の報告に基づいて,コホートの解析前にスコア閾値を設定したところ,これらのスコア値未満の動脈瘤では破裂や関連死は認めなかった.
さらに,脳動脈瘤は形成直後あるいは増大中に破裂する傾向が強く,早期破裂を示さない動脈瘤はその後安定することが多い(文献7,10).本研究でも破裂の87%は診断後5年以内に生じ,10年以降には1例も破裂がなかった.これは,大型の未破裂動脈瘤でもそのサイズや形状が長期に安定していれば破裂しにくいという既報を支持している(文献11).
要約すれば,本研究は,従来の未破裂動脈瘤の破裂率,破裂リスクに関する報告を追認した形となっている.
一方,近年未破裂動脈瘤の破裂リスクに関しては,血管壁の性状,剪断力,炎症の程度などの血管壁イメージングを基にした予測が進んでいる(文献12,13).将来は,既知のリスク因子と血管壁イメージングを基にしたより精度の高い新規の破裂予測モデルが登場することを期待したい.

執筆者: 

有田和徳

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