術前のステロイド短期投与は原発性中枢神経系リンパ腫の定位生検術の診断率に影響を与えない:ピッツバーグ大学の104例

公開日:

2025年11月13日  

Corticosteroid Use Before Stereotactic Brain Biopsy for Suspected Lymphoma

Author:

Ghoche MT  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41036860]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Oct
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)の診断には病理組織の確認が必須で,多くの場合,定位的生検で診断が確定する.一方,PCNSLは急速な増大や周囲浮腫によって進行性の症状悪化を引き起こすことが多く,症状緩和目的でステロイド剤を投与せざるを得ないこともある.しかし,定位的脳生検術前のステロイド剤投与は確定診断を曖昧にするので,生検術前のステロイド剤投与は避けるべきだとの考え方が主流である.
ピッツバーグ大学脳外科は,2014年以降に生検術で病理診断が確定したPCNSL 104例を対象に,生検術前のステロイド投与(98%がデキサメタゾン)が診断率に与える影響を検討した.ステロイド使用群は43例,非使用群は61例であった.

【結論】

ステロイド投与期間は平均は3.27日,最終投与から生検までの平均間隔は1.3日であった.生検術前の累積デキサメタゾン投与量は,≤20 mgが22例(54%),21-40 mgが9例(22%),>40 mgが10例(24%)であった.
診断率はステロイド使用群で95.3%,非使用群では90.2%と差はなかった.
デキサメタゾン累積用量毎の診断率は,≤20 mg:95.5%,21-40 mg:100%,>40 mg:100%で差はなかった.ステロイド投与期間毎の診断率は,≤5日:94.6%,>5日:100%で差はなかった.最終ステロイド剤投与から生検までの時間間隔で分けても診断率に差はなかった.

【評価】

原発性中枢神経系リンパ腫(PCNSL)は原発性脳腫瘍の約4%を占め(文献1,2),そのうち90%はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である(文献3).その診断は臨床症状や画像所見のみでは困難で定位的生検手術や開頭生検手術が必須である(文献3,4).PCNSLはステロイド剤に対する感受性が高いため,占拠性効果が高く強い神経症状を呈しているものに対して准緊急でステロイド剤を使用することがあるが,これによって組織診断が困難になることが多い(文献5).最近のメタアナリシスでも,PCNSLに対する生検手術前のステロイド剤の投与は使用量,使用期間,術前減量の如何にかかわらず,生検手術を失敗に終わらせる可能性が高いことを明らかにしている(文献6).このため,PCNSL組織診断前のステロイド剤の投与は極力避けるべきであるというのが脳外科医の“常識”である(文献7,8).
しかし,ピッツバーグ大学脳外科で2014年以降に生検術で病理診断が確定したPCNSLの連続104例という,これまでで最大規模のコホートを対象とした本研究では,診断率はステロイド使用群で95.3%,非使用群では90.2%と差は認められなかった(p =.46).従来の報告との違いの理由について,著者らは本コホートでのステロイド剤平均投与期間が3.27日と短く,多くが最終投与後1〜2日以内に生検を実施していたため,組織学的退縮が最小限に抑えられた可能性があるとしている.ちなみに上記メタアナリシスの対象患者のうちステロイド剤投与を受けた679例では,術前に平均6.7日間,デキサメタゾン当量17.5 mg/日が投与されていた(文献6).
また本研究コホートでは,定位的生検前の24-48時間以内に造影MRIを行い,この最新画像に基づいて定位手術が計画されていたため,腫瘍縮小によるサンプリングエラーが少なかった可能性がある.
本研究の結果は,今後より多数例を対象とした前向き試験で検証される必要性はあるが,重篤な症状を呈しているPCNSL患者では,定位生検術までの3-4日間くらいのデキサメタゾンの短期投与は許容できるのかも知れない.

執筆者: 

有田和徳