慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術は2050年までにどこまで増えるか:米国における予測

公開日:

2026年3月10日  

Forecasting the rise of middle meningeal artery embolization for chronic subdural hematoma patients: United States projections from 2022 to 2050

Author:

Gajjar AA  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Hospital of the University of Pennsylvania, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41650446]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

人口の高齢化に伴い,全人口に占める慢性硬膜下血腫の有病率は高くなっており,さらに抗血栓剤服用患者の増加はこれに拍車をかけている.一方,中硬膜動脈塞栓術(MMAE)は従来の外科治療と比較して再発率を低減する可能性が報告されており(文献1-5),米国では今後,慢性硬膜下血腫に対するMMAE実施の割合は増加すると予測される.
本研究は米国における慢性硬膜下血腫患者の発生数を2050年まで推定し,MMAEに対する需要の増大を予測するものである.
推定の根拠として,全米入院患者サンプル(NIS),米国の国勢調査による人口予測,ペンシルベニア大学の救急科で2023年1年間に撮像された頭部CT画像531例が用いられた.

【結論】

慢性硬膜下血腫の発症率は加齢とともに急上昇し,85歳以上では人口10万人当たり約208例であった.米国における慢性硬膜下血腫の発生数は2022年の69,794人から2050年には79,212人に増加すると予測される(13.5%の増加率).
CT上の慢性硬膜下血腫の厚みは平均13 mmであり,8 mm以上は56.3%,15 mm以上は14.3%であった.血腫の厚み8 mm以上をMMAEの適応とすれば,MMAEの対象患者は2022年の39,294例/年から,2050年には44,596例/年に増加すると予測され,血栓回収術の症例数に匹敵する可能性がある.

【評価】

本稿では,まず米国における慢性硬膜下血腫の年間発生数が現在約7万人であり,人口の高齢化によって今後の25年間すなわち2050年までに13.5%増加し,約8万人に達するであろうと予測している.著者らは,慢性硬膜下血腫の約半数を占める血腫の厚みが8 mm以上のケースを中硬膜動脈塞栓術(MMAE)の適応と仮定すれば,2050年にはMMAE適応の患者が約4.5万人に達すると予測している.2021年段階における米国での血栓回収(機械的血栓除去)の実施数は年間約3万件で,最近,血栓回収の増加率は落ち着いているので(文献6),25年後にはMMAEの症例数が血栓回収の症例数に匹敵あるいは凌駕するのではないかというのである.この推測を背景に,著者らは,この増大しつつある「公衆衛生上の課題」に対応するために,医療資源の配置と専門医の育成を通じて,医療体制を整備すべきであると結論している.
一方,2018年のToiらの報告によれば,日本における慢性硬膜下血腫の手術数は2010年からの3年間では63,358例(発症率:約2万件/年)で,その90%以上は穿頭洗浄術が実施されている(文献7).世界最速の高齢化率を示している日本では,米国をはるかに上回る速度で慢性硬膜下血腫の発症率が高まっており,山形県の統計では,2004年から2014年の10年間で21.0人/10万人から33.5人/10万人と約60%の上昇が認められる(文献8).この勢いが続くと,2050年には日本全体で,現在の2-3倍すなわち約5万人/年が慢性硬膜下血腫を発症するかも知れない.本稿の著者らが言うように慢性硬膜下血腫の半数がMMAEの適応だとすれば,2050年には日本では2.5万人/年がMMAEの適応になるということになる.
問題は,慢性硬膜下血腫の約50%がMMAEの適応とする著者らの仮定が正しいかどうかである.
岡山大学のMandaiらが2000年に,再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対する治療として初めて報告したMMAEは(文献9),近年米国を中心に普及しつつあり,手術に代わる治療として実施されたり,手術と同時に実施される症例が増えている.その結果,標準的な手術(穿頭洗浄術)と比較して再発が少ないことが示唆されている(文献1-5).しかし,標準的な手術に対するMMAE単独の優位性がRCTで証明されているわけではない.
特に本稿の著者らが用いた,血腫の厚みが8 mm以上をMMAEの適応とするという仮定には,大部分の脳外科は疑問を呈するはずである.そのくらいの薄い慢性硬膜下血腫が症状を呈することは少ないし,自然経過で消退することも多い.
現在,標準的な手術単独とMMAE単独を比較するRCT(CHESS試験)が米国で進行中であり(文献10),その結果に期待したいが,日本では慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄術は,若い脳外科医が局所麻酔下で行い30分以内で終了する手術であり,米国のように全身麻酔下の手術ではない.日本では,MMAEはやはり再発例に限定された,血管内エキスパートの手による治療手技として今後も実施されるものと思われる.

執筆者: 

有田和徳

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