公開日:
2026年5月5日Phase II study of safusidenib erbumine in patients with chemotherapy- and radiotherapy-naïve isocitrate dehydrogenase 1-mutated WHO grade 2 gliomas
Author:
Arakawa Y et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan| ジャーナル名: | Neuro Oncol. |
|---|---|
| 発行年月: | 2026 Mar |
| 巻数: | 28(3) |
| 開始ページ: | 717 |
【背景】
WHOグレード2のグリオーマではIDH変異が高頻度に認められる(文献1).変異型IDH1/2両方を標的とする経口阻害薬ボラシデニブの第3相試験は有意のPFS延長効果を示し(文献2),同薬は既に米国FDAで承認され,日本でも薬価収載が待たれる段階である.
本稿は,変異型IDH1を有するグレード2グリオーマに対する経口阻害薬サフシデニブ・エルブミンに関する,日本において実施された第2相試験の結果である.対象は化学療法および放射線療法未施行のIDH1変異グレード2グリオーマ27例(年齢中央値41歳)で,腫瘍型は乏突起膠腫17例とびまん性星細胞腫10例,KPSは1例を除き全例90%以上であった.
【結論】
2次元腫瘍量(SPD)の中央値は1011.5 mm²であった.追跡期間中央値は28ヵ月で,19例(70.4%)が治療継続中であった.
MRI画像所見(RANO基準)に基づく客観的奏効率(ORR)は44.4%であった.PFS中央値には未到達,24ヵ月時点でのイベント非発生確率は87.9%であった.医薬品規制用語集(MedDRA)に基づく頻度40%以上の治療下有害事象(TEAE)は,脱毛(59.3%),関節痛(55.6%),皮膚色素沈着(48.1%),ALT(GPT)上昇(40.7%)であった.TEAEの多くはグレード1または2であった.治療関連グレード3以上のTEAE発生率は18.5%であった.
【評価】
WHOグレード2(低悪性度)グリオーマでは,IDH1かIDH2変異が高頻度で認められるが(文献1),約70-90%はIDH1変異陽性であり,IDH2陽性腫瘍は1-5%に過ぎない(文献3,4).また,IDH1変異とIDH2変異は相互排他的であり,ともに陽性の腫瘍はない.
本第2相治験の対象となったサフシデニブ・エルブミンは,変異型IDH1/2両方を標的とし既に第3相試験が終了しているボラシデニブとは異なり,変異型IDH1のみに有効な経口阻害薬である(文献5).したがって,ボラシデニブに比べれば,IDH2阻害が不要な腫瘍では,off-target効果(有害事象)の回避が期待できる.
手術以外は無治療のIDH1変異グレード2グリオーマ27例を対象に,日本で実施された本試験(NCT04458272)では,MRI画像所見上の奏功率44.4%,2年間PFS 87.9%であることを示した.また,治療開始後の全有害事象(TEAE)は大部分がグレード1または2で,肝機能異常2例,健忘1例,頭痛1例を含むグレード3以上の治療関連TEAE発生は5例(18.5%)であった.気になるのは,脱毛や皮膚色素沈着といった皮膚関連有害事象が約半数で認められたことで,投与中止によって多くは改善または消失したとのことであるが,グレード2グリオーマは若年成人に好発することを考慮すれば(文献6,7),実臨床への導入時には充分な説明と同意が必要と思われる.
特筆すべきは,先行するボラシデニブの第3相試験では客観的奏効率(ORR)は約10%であったのに対して,本試験のサフシデニブのORRは44.4%(12例/27例)と相対に高いことである.また奏効と判断された12例では,治療開始後24ヵ月の時点でも奏効が維持されている可能性が示唆されている.先行して,やはり日本で行われた再発または進行IDH1変異グリオーマ(グレード2-4)47例を対象とした第1相試験でも,サフシデニブのORRが非造影腫瘍で約33%,造影腫瘍(悪性を示唆)で17%と期待し得る結果を示している(文献8).
本試験の結果を受けて著者らは,サフシデニブは,化学療法および放射線療法未施行のIDH1変異グレード2グリオーマに対する新たな治療選択肢となり得る薬剤であり,長期投与により腫瘍再発および進行を遅延させる可能性がある.術後早期に本薬を導入することで,放射線療法および化学療法を再発時まで延期することが可能となり,毒性の発現を遅らせ,生存期間延長につながる可能性があるとまとめている.第3相試験への歩みを期待したい.
標準治療後のIDH1変異グリオーマ(グレード2-4)に対するサフシデニブ投与に関しては既に米国を中心に第3相試験(SIGMA試験,NCT05303519)が進行中である(文献9).こちらも注目したい.
<コメント>
サフシデニブはボラシデニブと同様にIDH変異によって生じるオンコメタボライトの細胞内蓄積を阻害することにより,その後の腫瘍細胞の悪性度進行を防ぐ薬剤である.ボラシデニブと比べて奏功率が高い一方で,副作用も多く発生している.本邦ではボラシデニブの肝障害が欧米よりも高いことが臨床上の問題であり,ボラシデニブ以外のIDH阻害薬の開発も期待される.サフシデニブはボラシデニブとの副作用プロファイルが異なることから,ボラシデニブが使用できない患者にも適用できる可能性がある.一方で脱毛や皮膚の色素沈着,関節痛などは無視できない副作用で,治療開発過程における最適な投与量設定が望まれる.(広島大学脳神経外科 山崎文之)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Louis DN, et al. The 2021 WHO classification of tumors of the central nervous system: a summary. Neuro Oncol. 23:1231–1251, 2021
- 2) Mellinghoff IK, et al. Vorasidenib in IDH1- or IDH2-Mutant Low-Grade Glioma. N Engl J Med. 389(7):589-601, 2023
- 3) Hartmann C, et al. Type and frequency of IDH1 and IDH2 mutations are related to astrocytic and oligodendroglial differentiation and age: a study of 1,010 diffuse gliomas. Acta Neuropathol. 118(4):469-74, 2009
- 4) Kim YH, et al. Molecular classification of low-grade diffuse gliomas. Am J Pathol.177(6):2708-14, 2010
- 5) Machida Y, et al. A potent blood-brain barrier-permeable mutant IDH1 inhibitor suppresses the growth of glioblastoma with IDH1 mutation in a patient-derived orthotopic xenograft model. Mol Cancer Ther. 19:375–383, 2020
- 6) Gakinya S, et al. Frequency of IDH1 mutation in adult-type diffuse astrocytic gliomas in a tertiary hospital in Kenya. Front Med (Lausanne). 11:1305714, 2024
- 7) Lim-Fat MJ, et al. A comparative analysis of IDH-mutant glioma in pediatric, young adult, and older adult patients. Neuro Oncol. 26(12):2364-2376, 2024
- 8) Natsume A, et al. The first-in-human phase I study of a brain-penetrant mutant IDH1 inhibitor DS-1001 in patients with recurrent or progressive IDH1-mutant gliomas. Neuro Oncol. 25:326–336, 2023
- 9) SIGMA (Safusidenib in IDH1 Mutant Glioma Maintenance) (SIGMA)
参考サマリー
- 1) 変異型IDH1/2阻害薬Vorasidenibはグレード2成人グリオーマのPFSを有意に延長する:INDIGO試験
- 2) 低悪性度グリオーマでは広範囲切除が生存期間延長と関連:UCSFの392例
- 3) IDH変異グリオーマにおけるCDKN2Aホモ接合性欠失が予後に及ぼす影響
- 4) T2体積に比べてT1体積が小さなIDH変異星細胞腫(グレード2,3)は浸潤性で予後不良
- 5) IDH変異型 グリオーマでは皮質浸潤部に造影されない部分がある:北京天壇病院から新規鑑別方法の提案(CONTINサイン)
- 6) T2強調像での腫瘍体積に比べてT1強調像での腫瘍体積が小さなIDH変異型星細胞腫では摘出率が低い
- 7) 通常のT2-FLAIRミスマッチではなくスーパーT2-FLAIRミスマッチがIDH変異型星細胞腫の予後良好のサインである
- 8) 膠芽腫でもMRI非造影部分におけるT2-FLAIRミスマッチでIDH変異型が診断出来る
- 9) 組織学的膠芽腫と分子学的膠芽腫(IDHワイルドタイプの星細胞腫)の臨床的違い
- 10) 無症候性のIDH野生型膠芽腫の予後はMGMT非メチル化であっても良好:国立がん研究センター