てんかんを初発症状とするグリオーマの特徴とシナプス関連遺伝子の発現増強

公開日:

2026年5月26日  

最終更新日:

2026年5月25日

Seizure-presenting IDH-wildtype glioblastoma and the upregulation of a synaptic signature

Author:

McDonald MF  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Baylor College of Medicine, Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41962162]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

てんかん性活動はグリオーマの病期全体を通じて高頻度に認められるが,神経細胞の過剰興奮性の基盤となる生物学的機序は十分に解明されていない.テキサス州ベイラー医科大学脳外科のチームは363例のグリオーマ(IDH野生型膠芽腫190例,IDH変異型星細胞腫113例,IDH変異型乏突起膠細胞腫60例)を用いて,初発症状としてのけいれん発作(けいれん発症)の頻度を評価した.また,けいれん発症の生物学的背景を探るために,バルクRNAシーケンス解析を行った.
けいれんを初発症状としたのは,IDH野生型膠芽腫では30.5%であり,IDH変異型星細胞腫の56.6%,IDH変異型乏突起膠細胞腫の66.7%と比して有意に低かった(p <.001).

【結論】

IDH野生型膠芽腫におけるけいれん発症は腫瘍体積が小さいこと,腫瘍周囲浮腫が少ないことと関連していた(いずれもp <.001).IDH変異型星細胞腫でも,けいれん発症のものは腫瘍体積が小さく(p =.0289),またより低グレードであった(p =.026).
RNA解析では,けいれん発症のIDH野生型膠芽腫では,イオン輸送およびシナプス機能に関連する経路の遺伝子の高発現が認められ,特にIGFN1,RELN,SLC17A8が高発現していた.多変量解析では,側頭葉局在(OR:3.25),頭頂葉局在(OR:5.44),およびSLC17A8発現(OR:3.44)がけいれん発症の有意の予測因子であった.浮腫の存在およびADAMTS2発現は負の予測因子であった.

【評価】

近年,グリオーマ生物学においては,がん神経科学(cancer neuroscience),すなわち腫瘍増殖を促進するグリオーマ細胞と発生母地の神経細胞の関係が注目されている(文献1).これには双方向性の相互作用が含まれ,神経細胞の過剰興奮がグリオーマの発生および浸潤を促進し,一方でグリオーマが神経回路を改変して神経興奮性をさらに増強することが示唆されている(文献2-4).この考え方に従えば,けいれんで発症する腫瘍では神経過剰興奮により媒介される腫瘍増殖速度の増加が示唆されるが,実際の臨床研究では,けいれん発症はむしろ予後良好因子とされている(文献5,6).
本研究では単一施設363例という多数例を対象に,腫瘍グレードおよび組織学的分類に基づき,各種グリオーマ亜型においてけいれん発作で発症した症例とそれ以外の症状で発症した症例との画像所見あるいは遺伝子(RNA発現量)レベルでの違いを解析したものである.
その結果,IDH野生型膠芽腫で,けいれん発症の腫瘍では,他の症候で発症する腫瘍に比して体積が小さく,周囲浮腫も少なかった.これは既報と一致するが(文献5-8),なぜそのような関係があるのかについては,本稿では明らかにされてはいない.もしかするとけいれん発症腫瘍の方が早期に発見されるだけなのかもしれない.今後,より多数例での検証が必要であろう.
RNA解析では,けいれん発症例はシナプス機能およびイオン関連経路の遺伝子の高発現と相関し,特に小胞型グルタミン酸トランスポーター遺伝子であるSLC17A8は,けいれん発症の独立した予測因子であった.けいれん発症IDH野生型膠芽腫ではこの遺伝子がコードする蛋白(VGLUT3)も高発現していた.グルタミン酸シグナルの亢進は腫瘍関連過剰興奮の重要な機序と考えられているので(文献9,10),腫瘍のけいれん発症との関係は示唆されるところである.今後,その詳細なメカニズムの解明に期待したい.

執筆者: 

有田和徳