大脳皮質の拡散-造影ミスマッチ・サイン:脳表近傍の膠芽腫と悪性リンパ腫を判別する画像診断バイオマーカー

公開日:

2026年6月11日  

Cortical Diffusion-Enhancement Mismatch Sign: A Specific Imaging Biomarker for Differentiating Primary Central Nervous System Lymphoma From Glioblastoma

Author:

Khairunnisa NI  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima city, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:42132378]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

従来から,MRI画像による中枢神経原発悪性リンパ腫(PCNSL)とIDH野生型膠芽腫(GBM)の鑑別方法はいくつか提案されているが,それらの識別能は決して十分ではない(文献1-3).
広島大学脳外科のチームは,大脳皮質に接する腫瘍に焦点をあて,大脳皮質の拡散強調像での高信号と同部分の造影効果の欠如(拡散-造影ミスマッチ・サイン)によって,PCNSLとGBMの術前鑑別が可能かどうかを後方視的に検討した.
対象は,2009年から2023年に広島大学脳外科で組織学的に確定診断されたPCNSL 61例とGBM 65例のうち,腫瘍が脳表に近い部位に存在したPCNSLの13例(21.3%)とGBMの35例(53.8%)である.

【結論】

脳表に近い部位に存在した13例のPCNSLのうち7例(53.8%)が拡散-造影ミスマッチ・サインを呈した.このサインはPCNSLにのみ認められ,GBMには認められなかった(p <.001,感度53.9%,特異度100%,陽性適中率100%,陰性適中率85.4%).拡散-造影ミスマッチ・サインを呈したPCNSLは7例全例がびまん性大型B細胞リンパ腫(DLBCL)で,このうち5例(71.4%)はnon-GCB(germinal center B-cell)タイプであった.
本所見は,皮質領域に及ぶPCNSLは灰白質から直接発生するのではなく,白質から進展した可能性を示唆している.

【評価】

PCNSLとGBMはともに主として大脳に発生する悪性腫瘍であるが,その治療法は根本的に異なっている.GBMでは通常,可及的全摘出術を行い,その後に補助化学放射線療法を施行する(文献4).一方,PCNSLでは高用量メトトレキサートを主体とした化学療法が基本であり,外科的摘出は通常行われない(文献5).したがって,両者を適切な治療戦略へ導くためには,術前画像による鑑別は極めて重要であり,特異的画像バイオマーカーの同定が強く求められている.
通常MRIにおいて,PCNSLは深部灰白質を好発部位とし,均一に造影される病変として描出されることが多い(文献6,7).しかし一部の症例では,GBMを含む他の脳腫瘍に類似する場合がある.過去10年間で,拡散強調画像およびADCを用いたPCNSLとGBMの鑑別が検討されてきた.これまでの研究では,PCNSLはGBMより低いADC値を示し,その差は統計学的に有意であると報告されている(文献1-3).しかし両者のADC値には重複が存在し,PCNSLとGBMを鑑別する診断バイオマーカーとしてのADC値の信頼性には限界がある.
本研究は,腫瘍が脳表に近い部位に存在した13例のPCNSLと35例のGBMを対象に大脳皮質の拡散-造影ミスマッチ・サインの意義を検討したものである.ここで言う拡散-造影ミスマッチ・サインとは皮質灰白質および皮質下白質の双方に拡散制限(DWIで高信号)を認める一方で,造影効果は皮質には認められず,皮質下領域に限局する所見として定義されている.この所見は,PCNSLに対して極めて高い特異度および陽性的中率を示し(いずれも100%),感度は中等度であったことから,PCNSLの“ルール・イン”診断マーカーとして有用である可能性が示唆される.さらに,本研究では,拡散-造影ミスマッチ・サインを示したPCNSL症例の組織像において,腫瘍細胞密度とCD34陽性血管数が,皮質灰白質よりも皮質下白質で高値であることを示し,この違いが,PCNSL症例における大脳皮質での拡散-造影ミスマッチ・サインを生み出していることを示唆している.また,このようなPCNSLは白質で発生して,灰白質に進展したものであろうと類推している.
残念ながら,本研究対象のPCNSL症例は13例で,大脳皮質の拡散-造影ミスマッチ・サインを呈したのは7例に過ぎない.この拡散-造影ミスマッチ・サインはどこの施設でも行っている通常のMRI検査の一環として得ることができる所見であり,今後,多施設前向き研究で検証されるべきである.

<著者コメント>
これまで,膠芽腫の鑑別診断の研究は主に白質に注目されてきた歴史があり,膠芽腫が白質に浸潤する一方で,転移性脳腫瘍や悪性リンパ腫は白質への浸潤傾向が乏しいことが,拡散強調画像や拡散テンソル画像を用いて解析した結果を基に報告されてきた.この研究は悪性腫瘍の皮質への浸潤と血管新生に着目した極めて画期的なもので,膠芽腫は皮質に浸潤または発生して容易に血管新生を起こして造影されるが,リンパ腫は白質から発生して皮質に浸潤し,血管新生が間に合わないため皮質に造影を伴わないという特徴を有することが病理的にも証明された.Neurosurgery誌のコメントにも記載されているように症例数が少ないことがlimitationだが,臨床試験のデータベースなどで証明されることが期待される.(広島大学脳神経外科 山崎文之)

執筆者: 

有田和徳