膠芽腫における造影剤増強部分の体積比は20%に過ぎない:ジョンズ・ホプキンズ大学

公開日:

2026年10月3日  

Volumetric Analysis of Contrast Enhancement in Patients With Newly Diagnosed Glioblastomas

Author:

Saint-Germain MA  et al.

Affiliation:

Department of Oncology, Sidney Kimmel Comprehensive Cancer Center, Johns Hopkins University, School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41369195]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Sep
巻数:
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【背景】

膠芽腫に対する現在の標準治療は,外科的切除に続いてテモゾロミド併用放射線療法,その後のテモゾロミド補助療法である(文献1,2).しかし,5年生存率は膠芽腫全体で約7%にとどまっている(文献2,3).その主要な理由は血液脳関門によって抗癌剤の脳内・腫瘍内移行が阻止されることである.ガドリニウム造影MRIは,BBBが高度に破綻した腫瘍領域,いわばテモゾロミドが効果を発揮し得る部位を同定することができる(文献4).
ジョンズ・ホプキンズ大学脳外科は,2022年に新規診断膠芽腫と確認された連続50例を抽出し,T2/FLAIR高信号,造影増強,壊死の各領域の体積を,自動体積セグメンテーションツール(HD-GLIO)を用い,さらに手動で修正して算出した.

【結論】

患者年齢中央値は64.5歳(35-85歳),男性62%,術前MRI時のデキサメタゾン1日投与量中央値は10 mg(0-40 mg)であった.
各領域の体積中央値は,T2/FLAIR高信号領域54.2 cm³(IQR 24.5-92.4),造影増強領域17.2 cm³(IQR 3.3-33.5),壊死領域4.6 cm³(IQR 0.1-15.2)であった.術前腫瘍体積のうち,造影増強領域はわずか19%(IQR 7.1-29),T2/FLAIR高信号のみの領域は74%(IQR 56.5-92.5),壊死領域は7%(IQR 0.4-12.4)であった.

【評価】

この研究は,膠芽腫において,抗癌剤が腫瘍細胞に到達し得るBBBが破綻した領域,すなわちガドリニウムによって造影される領域の体積が約20%以下であることを明らかにしている.また,いずれの腫瘍でも造影される領域は60%を超えなかった.これは,テモゾロミドをはじめとする多くの抗癌剤は,BBBを通過しにくいため(テモゾロミドでも通過率は約20-30%),腫瘍体積の80%以上では抗癌剤への曝露がきわめて限定的である可能性が高いことを示している.しかも,多くの抗癌剤はガドリニウムとは物理化学的特性が大きく異なり,実際はBBBを通過する可能性はガドリニウムよりはるかに低い.さらに,この研究によれば,ガドリニウム造影部分の全摘出を目標とした手術療法では腫瘍の8割近くが残存することになる.著者らはこの結果を受けて,膠芽腫患者の生存を改善するには,抗癌剤をガドリニウム非造影領域へ治療濃度で到達させるための方策を開発する必要があると結論している.
著者らは,BBBを一過性に開放する局所的な手法として,光学的刺激,電気刺激,機械的刺激を挙げ(文献5,6),その中ではLITT(laser interstitial thermotherapy)とFUS(focused ultrasound)を有望視している(文献7,8).LITTはレーザーで標的組織に熱を発生・付与する治療法であり,治療後2週間までBBB透過性を増加させ,その影響が4~6週間持続し得ることが示されている.FUSは,体外transducerと全身投与microbubbleを用いて超音波を送達する方法で,標的領域におけるガドリニウム造影効果と化学療法薬送達を最長20時間増強することが示されている.一方,全身投与の化学療法剤としては血管内皮細胞内の受容体シグナル伝達経路を活性化し,BBB透過性を増加させるVAPs(vasoactive peptides)を含む薬剤の開発が期待されるが(文献8,9),まだ実用化には至っていない.
この研究は,膠芽腫に対する化学療法において,BBBを開放することの重要性を改めて浮き彫りにしている.先は遠そうであるが,若い研究者たちの努力と発展に期待したい.

<コメント>
本研究は,初発膠芽腫の術前MRIにおいて,FLAIR高信号領域全体に占めるガドリニウム造影領域の体積比率を算出し,全身化学療法の到達しやすい領域の代替指標としている.その結果は,非造影病変へ薬物到達性を向上させる手法について関心を促すものとなっている.
一方,著者らも述べている通り,ガドリニウム増強効果はBBB透過性の間接的な指標であり,個々の抗腫瘍薬の到達範囲や,治療上有効な薬物暴露を直接示すものではない.11C標識テモゾロミドを用いたPET研究では,腫瘍のみならず対側正常脳へのテモゾロミド集積が示されている(文献10).したがって,非造影領域を薬物が到達しない領域とみなすことはできない.また,分母として用いられたFLAIR高信号領域には,腫瘍と血管原性浮腫が混在している点にも注意を要する.この点に関連して,組織学的にgrade 2-3相当で,非造影病変を主体とすることも多いいわゆるmolecular GBMにおいて,どのような薬物分布を示すかという点は今後の課題として興味深い.
さらに,薬剤到達性は治療に伴って変化する点にも注目したい.Gerstnerらは,膠芽腫に対するベバシズマブ投与後,造影病変内の血管透過性と11C標識テモゾロミド集積が低下することを示している(文献11).したがって,未治療の術前画像から得られた体積比率を,ベバシズマブ導入後や術後の薬剤分布にそのまま当てはめることはできず,治療時点に応じた評価が必要である.(鹿児島大学脳神経外科 牧野隆太郎)

執筆者: 

有田和徳

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