非機能性下垂体腫瘍101例における頭痛に関する前向き研究:その頻度,リスク因子,予後

公開日:

2024年10月16日  

最終更新日:

2024年10月17日

Headache in patients with non-functioning pituitary adenoma before and after transsphenoidal surgery - a prospective study

Author:

Hantelius V  et al.

Affiliation:

Department of Internal Medicine and Clinical Nutrition, Institute of Medicine, Sahlgrenska Academy, University of Gothenburg, Gothenburg, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:38767698]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭痛は非機能性下垂体腫瘍患者の33-72%で認められるが(文献1,2),その転帰に関する前向き研究は少ない.スウェーデン・ヨーテボリ大学脳外科のチームは,2015年以降に経蝶形骨洞手術を行った非機能性下垂体腫瘍の連続101例を対象に,MIDAS(頭痛日常生活支障度質問表)とEQ-VASを術前と術後12ヵ月目に評価し,手術が頭痛の頻度や重症度,生活の質に与える影響を前向きに解析した.
術前,27例(27%)が日常生活に支障を及ぼすような頭痛(MIDASグレード ≥II)を訴えた.この27症例のMIDAS中央値は術前60(IQR:19–140)から術後10(0–49)に低下した(p =.004).

【結論】

この27例では,90日間で頭痛発作があった日数中央値は術前45日から術後6日に低下した(p =.002).頭痛の強さは術前5から,術後12ヵ月は4に低下した.術後に臨床的に意義のある改善(MIDAS低下 ≥50%)を示したものは18例(67%),悪化は4例(15%),不変は5例(19%)であった.
臨床的に意義のある頭痛の改善を示した18例ではEQ-VASは50から80に改善した(p <.001).
単変量ロジスティック解析では,手術後の頭痛の改善を予測する因子は明らかにならなかった.
術前に頭痛がなかった74例のうち11例(15%)では手術後に頭痛(MIDASグレード ≥II)が出現した.

【評価】

下垂体腫瘍患者で頭痛を訴えることは多いが,頭痛は種々の原因でおこるありふれた症状であり,一般には頭痛だけをもって,下垂体腫瘍の治療適応とすることは少ない(文献1,3).この前向き研究では,非機能性下垂体腫瘍患者101例のみを対象にMIDASスコアリングシステムを用いて手術前・後の頭痛の頻度,強さ,日常生活への影響を評価したところ,27例(27%)で治療前に日常生活に支障を及ぼすような頭痛(MIDASグレード ≥II)が認められ,20例はグレードIV(強い生活障害)であった.手術後には,27例中の18例(67%)で臨床的に意義のある改善(MIDAS低下 ≥50%)が認められ,これらの症例では手術後のQOL(EQ-VASによる評価)も改善した.非機能性下垂体腺腫が,生活に支障を及ぼすような強い頭痛の原因になっていることを改めて明瞭に示している.
一方,手術前に日常生活に支障を及ぼすような強い頭痛がなかった74例のうち,15%では新たに日常生活に支障を及ぼすような頭痛(MIDASグレード ≥II)が認められたという.
術前の頭痛と関連する因子に関しては,日常生活に支障を及ぼすような頭痛を訴えた27例はそうでなかった74例と比較して年齢が相対に若年で(平均53歳 vs 65歳,p <.001),視交叉圧迫の頻度が低く(78% vs 95%,p =.021),Ki67 >3%の頻度が高かった(23% vs 1%,p =.001).海綿静脈洞浸潤,副腎皮質不全症,甲状腺機能低下症,性腺機能低下症,尿崩症の頻度には2群間で有意差は認められなかった.非機能性下垂体腫瘍患者の年齢(相対的若年)やKi67陽性率が頭痛の発現と相関するという本研究結果は過去の報告と一致している(文献4-8).Ki67 >3%の頻度が高かったのは,腫瘍の成長速度と頭痛との相関を強く示唆するものである.本研究では,視交叉圧迫の頻度は頭痛群で少なかったが,これは頭痛患者では視機能障害が出現する前に非機能性下垂体腫瘍の診断に至っている可能性を示唆している.一方,本研究の多変量解析では,相対的若年者のみが,術前の頭痛発現と独立相関した(p =.003).これは,相対的高齢者では,退職後の患者が増えるために,MIDAS質問項目の就業への影響が低く評価されがちなのかも知れないと,著者らは推測している.
一方,日常生活に支障を及ぼすような強い頭痛を訴えた27例のうち手術後に意義のある改善を示したものは18例であった.この18例を,改善が認められなかった9例と比較したが,年齢,性,BMI,視交叉圧迫,周術期髄液漏,腫瘍残存(>5 mm),副腎皮質不全症,甲状腺機能低下症,術後尿崩症など検討した全ての因子でその頻度には有意差が認められなかったという.
本研究の大きな問題点は,腫瘍サイズ,鞍隔膜裂孔の大きさ,のう胞の有無を含めた腫瘍の形態,腫瘍の進展方向,トルコ鞍内圧(文献9,10)などの物理的要素と頭痛の関係が検討されていないことである.特に,痛覚受容器が存在する鞍底部硬膜,鞍隔膜,海綿静脈洞壁,トルコ鞍周囲硬膜への圧迫や浸潤の程度と頭痛の関係は重要な関心事項である.また,手術後に頭痛が新たに出現した症例におけるその要因も不明である.今後に残された課題の多い研究テーマである.

執筆者: 

有田和徳

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