アルツハイマー病における脳内鉄沈着のR2*MRによる検出:診断と進行評価における意義

公開日:

2021年1月10日  

最終更新日:

2021年12月17日

Cross-sectional and Longitudinal Assessment of Brain Iron Level in Alzheimer Disease Using 3-T MRI

Author:

Damulina A  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Medical University of Graz, Graz, Austria

⇒ PubMedで読む[PMID:32602825]

ジャーナル名:Radiology.
発行年月:2020 Sep
巻数:296(3)
開始ページ:619

【背景】

アルツハイマー病(AD)では大脳基底核や扁桃体に鉄沈着が起こることが知られているが,その意義に関しては詳細ではない.オーストリア国グラーツ大学のDamulinaらは,3TMRIを用いて組織内沈着鉄の定量的指標であるR2*値を指標としてこの点を検討した.対象はAD患者100人(平均73歳)で,コントロールは年齢を調整した健常成人100人.AD群のうち56人は初回評価から平均17ヵ月後に2回目の神経心理学的評価とMRIを受けた.

【結論】

初回評価時,AD群ではコントロール群に対して,R2*値が基底核(p=.01),全皮質(p<.001),後頭葉(p=.007),側頭葉(p<.001)において有意に高かった.AD患者の側頭葉におけるR2*値は,脳の体積変化とは関係なしに,経時的な認知機能評価スコア(CERADトータルスコア)の低下と逆相関して上昇した(β=–3.23 score/sec–1,p=.003).

【評価】

アルツハイマー病では基底核の鉄沈着はβアミロイド沈着やタウ蛋白の凝集-神経原線維変化と相関しており(文献1,2),基底核の鉄沈着は健常者に比べて高いことが報告されている(文献3,4).しかし,大脳新皮質における鉄沈着の検討は少なく,また,認知機能の経時的変化と新皮質における鉄沈着の進行に関する研究はなかった.この横断的かつ縦断的な研究によって,R2*値で定量的に評価し得る脳内鉄沈着レベルはアルツハイマー病で基底核ならびに新皮質で高く,そのうち側頭葉では,経時的な病勢進行と相関していることが明らかになった.これはアルツハイマー病においてβアミロイドが最も沈着しやすい部位が側頭葉であり,鉄の沈着は特にβアミロイドプラーク内で認められることを反映しているものと思われる(文献5,6).
しかし,統計学的には基底核や新皮質各部位でアルツハイマー病と健常者間で鉄沈着の程度に有意差があるものの,実際のR2*値にはばらつきと2群間での重なりが大きく(例,全皮質:健常者17.0[IQR 16.6–17.6],AD患者17.4[16.7–18.1]),どの部位のR2*値をとっても,それのみでアルツハイマー病の診断に使用出来る訳ではなさそうである.また,一旦アルツハイマー病の診断がついた患者における側頭葉のR2*値のさらなる増加が臨床像の悪化を反映していたといっても,神経心理学的な評価を超える新しい患者情報をもたらしたわけではない.
したがって現段階でR2*値,R2*マッピングは,アルツハイマー病あるいは疑い患者における病態解明のための重要な武器ではあるかも知れないが,実際の臨床的応用範囲は限られているように思われる.今後,軽度認知障害(MCI)に特異的な鉄分布パターンなどがわかるようになれば,R2*マッピングの臨床的意義は高まるかも知れない.
ちなみにMRIによる脳内の鉄沈着の定量的評価法には,本研究で用いられたR2*以外にQSM(Quantitative Susceptibility Mapping)がある(文献4).現在わが国でも,QSMと脳の特定部位の萎縮を客観的に評価するVBM(Voxel Based Morphometry)を組み合わせた認知症の早期診断研究が,北海道大学の工藤らのグループと日立製作所によって進行している(文献7).

執筆者: 

有田和徳