ASPECTSが3~5点の大きな梗塞でも血管内治療が良い(RESCUE-Japan LIMIT):NEJM

公開日:

2022年2月14日  

Endovascular Therapy for Acute Stroke with a Large Ischemic Region

Author:

Yoshimura S  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Epidemiology, Hyogo College of Medicine, Nishinomiya, Hyogo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35138767]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2022 Feb
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収治療は急速に普及しつあるが,ガイドライン上は頭蓋内出血の恐れがあるASPECTS 6点未満の大梗塞は適応外か,低レベルの推奨となっている(文献1,2).ただし,過去のRCTのメタ解析や前向き登録研究ではASPECTS 6点未満の大梗塞に対する有効性も示唆されている(文献3,4).しかし,この問題に特化したRCTは未だなかった.
本研究は本邦で実施された,発症6時間以内かFLAIRで早期変化がまだ出ていない最終健常確認後24時間以内のASPECTS 3~5点の脳梗塞患者203例を対象としたRCTである.101例は血管内治療,102例は薬物治療に割り当てられた.

【結論】

両群とも27%がtPA投与を受けた.主要評価項目の発症90日目のmRS 0~3の割合は血管内治療群31.0%,薬物療法群12.7%であった(相対リスク2.43,p=.002).血管内治療群では薬物治療群と比較してmRSの機能予後良好の方向へのシフトが認められた(共通オッズ比2.42).入院後48時間の8ポイント以上のNIHSSの改善は血管内治療群で31.0%,薬物療法群で8.8%に認められた(相対リスク3.51).
一方,全ての頭蓋内出血は血管内治療群で有意に多かったが(58.0% vs 31.0%,p<.001),症候性頭蓋内出血には差はなかった(9.0% vs 4.9%,p=0.25).

【評価】

日本で実施されたこの多施設研究(RESCUE-Japan LIMIT)は,世界で初めての多数例を対象とした重症脳梗塞に対する血管内治療と薬物療法のRCTである.その結果,ASPECTSが3~5点(約9割がDWIの所見に基づいて判断)の比較的大きな梗塞でも,血管内治療群の方が標準的薬物治療群よりも機能予後が有意に良好であることが明らかになった.閉塞血管は内頚動脈と中大脳動脈M1がほぼ半数ずつで,約2割は内頚動脈とM1のタンデム病変であった.梗塞領域の体積は2群とも約100 ml.発症から穿刺までの時間中央値は254分(165~479)で,TICI≧2bは86%であった.
安全性評価項目では 頭蓋内出血の頻度は血管内治療群で有意に高かったが,症候性頭蓋内出血に限れば両群間で差はなかった.
本研究のlimitationとしては,①本研究実施施設の多くで灌流画像が得られていないこと,②欧米で普及が進んでいるRAPIDシステムによるミスマッチ自動画像解析の結果が示されていないこと,③tPAの使用が両群とも約3割と少ないことならびに日本でのtPAの推奨使用量(0.6 mg/kg)が諸外国に比較して低いことが薬物治療群に不利に作用している可能性が有る,などが挙げられる.今後の諸外国でのRCTの結果に期待したい.
本RCTの結果は, 臨床現場に大きな影響を与えることは間違いないが,この優れた成績は,研究参加機関がいずれも高度集積施設であったこと,再開通率(TICI≧2b)86%という結果からも推測されるように施術者を熟達した血管内治療医に限定したことで,初めて達成されたという事実も考慮すべきである.またこの研究でも,占拠性効果があったり,出血のリスクが高そうな症例は除外されているということであるので,一般の施設で本研究の結果を援用して血管内治療の適用を拡大する場合でも,まずはASPECTS:4~5点に限定するなど慎重な対応が望まれる.

<コメント>
Low ASPECTSに対する血栓回収術の有効性を世界で初めてRCTで示した我が国からの報告であり,改めて本邦における諸関係者のご尽力に敬意を払いたい.脳主幹動脈閉塞の重症度はCTあるいはMRIでのASPECTSスコアで評価することが多いが,発症から短時間しか経過していない場合は虚血深度がかなりヘテロな状態であると考えられる.脳梗塞巣は虚血時間,側副血行,虚血耐性で規定される.従って,特に発症から画像診断までの時間が短い場合,画像上の虚血コア(CTP評価)が必ずしも最終梗塞には至らない,いわゆる"ghost infarct core"に注意する必要がある.本研究のごとく発症から来院(治療)までの時間が早いものほど,tissue imagingではなくbrief imaging下での再灌流治療開始が望ましいと考えられる.一般的には脳主幹動脈閉塞におけるrapid progressorは3割ほど存在し,本研究に登録された症例の多くはこれに該当すると考える.一方,tPA静注療法併用の必要性については今後検証の必要がある.Low ASPECTSの症例ではあえてIV-tPAをスキップして血栓回収術を選択する施設が増えるかも知れない.本報告に続いて,これから同様のRCTの結果が次々と報告され,新たなエビデンスが構築されていくものと期待している.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

田中俊一