妊娠中に症候化した脳動静脈奇形の臨床像と予後

公開日:

2025年3月28日  

最終更新日:

2025年3月29日

Intracranial Arteriovenous Malformations During Pregnancy and Puerperium-A Retrospective Nationwide Population-Based Cohort Study

Author:

Pohjola A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Helsinki University Hospital, Helsinki, Finland

⇒ PubMedで読む[PMID:38934658]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:96(2)
開始ページ:346

【背景】

妊娠中は,血圧上昇,静脈圧の上昇,心拍出量の上昇,エストロゲンレベルの上昇によって,脳動静脈奇形(AVM)の破裂リスクが高まる可能性があるが,それを否定する報告もある(文献1,2,3,4,5).
ヘルシンキ大学のPohjolaらは,フィンランドの妊娠-出産データベース(177万出産)とヘルシンキAVMデータベース(805例)から,妊娠中,分娩,産褥期(分娩後2-3ヵ月)に症候化したAVM28例(平均28.9歳)を抽出し,その臨床像,治療,転帰について解析した.28例のSpetzler-PonceクラスはA:46%,B:39%,C:19%であった.約半数(46%)が1インチ以下の小型AVMであった.

【結論】

28例中21例は出血例で,7例はAVMに関連するてんかん発作例であった.出血の21例中4例(19%)が動脈瘤を伴っていた.9例(43%)は妊娠第2期,5例(24%)は妊娠第3期,2例(10%)は分娩中に出血した.AVMに対する治療は7例(25%)で妊娠中に,3例(10.7%)で産褥期に行われた.
出血例のうち5例(17.8%)は先行妊娠がなく,7例が1児を,6例が2児を過去に出産していた.
28例全体では,分娩後2-4ヵ月のGOSは,良好18例(67%),軽度の後遺障害2例(7.4%),重度の後遺障害4例(15%),死亡3例(11%)であった.児の死亡は1例で,アプガースコアは出血例と非出血例で差がなかった(8.3 vs 8.4).

【評価】

妊娠中の脳出血の頻度は0.9-7.5/100,000出産で,妊婦死亡の4-12%を占める.妊娠中の脳出血の8-38%でAVMが原因とされる.動静脈奇形の妊娠中の破裂リスクの増加を初めて指摘したRobinson JLらは,AVMを有する妊婦に対しては帝王切開での分娩を勧めている(1974,文献1).また,それに続くForsterらの論文では,女児のAVMは妊娠が問題になる以前に治療されるべきで,それが困難な場合は,妊娠分娩についてのカウンセリングが必要とされている(文献2).2023年の9報告のシステマティックレビューでは,妊娠-産褥期では非妊娠期と比較してAVMの初回破裂のリスクが高い(11% vs 6.7%)ことが示されている(文献4).一方で妊娠中の破裂リスクは非妊娠期と比較して高くないとの報告も多く,2019年の4報告のレビューでは妊娠中の破裂リスクの明らかな増加は示されなかったが(文献5),1報のみで非常に高い相対破裂リスク(30%)が報告されていた(文献3).
本研究の対象は,未破裂AVMを有する女性ではなく,妊娠中に出血かけいれんによってAVMが症候性となった妊婦28例(出血21例,けいれん7例)である.
本研究の結果から,どのような臨床的な教訓が引き出せるのか?
一つは妊娠中のAVMからの出血は妊娠第2期以降分娩時にかけて多かった点で,やはり妊娠週数に応じてAVMからの出血のリスクが高まるようである.過去の報告で示唆されたように妊娠週数と共に進行する血圧上昇,静脈圧の上昇,心拍出量の上昇などが関与するのかも知れない.一方で,この28例中約8割の患者では,過去に脳出血のない妊娠経験があるので,妊娠によるAVMからの出血のリスクはそんなに高くはなさそうである.
妊娠・分娩によるAVMの破裂リスクについてはまだまだ未解明で,今後大規模コホートでの前向き研究が必要と思われる.

執筆者: 

有田和徳