脳幹部海綿状血管腫におけるオリーブ核仮性肥大(HOD)の頻度,臨床像,予後:Mayoクリニックの120例

公開日:

2025年9月22日  

Hypertrophic Olivary Degeneration in Brainstem Cavernous Malformations: An Analysis of Predictors and Clinical Implications

Author:

Bektas D  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40673665]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳幹病変ではオリーブ核仮性肥大(HOD)が起こることがあるが,脳幹の脳海綿状血管腫(CCM)に伴うHODの臨床的意義はよくわかっていない.メイヨークリニックの脳外科は,2015年以降8年間で経験した脳幹CCMの連続120例(女性45.0%,平均年齢44歳)を後方視的に解析して,この問題を検討した.単発CCMは70%,多発CCMは30%であった.CCMの平均サイズは12.5 mmで,局在は橋41%,延髄20%,中脳20%などであった.診断時,70.8%が症候性出血を呈し,28.3%がその後に摘出術を受けた.平均追跡期間は8.8年で,MRI上のHODは24例(20%)で出現した.そのうち87%ではCCMはGuillain–Mollaret三角(GMT)内にあった.

【結論】

HOD有りの24症例のうち42%は無症候性で,残りは眼振,口蓋ミオクローヌス,小脳失調などのHODに特有な症状を呈した.
多変量解析では,橋の病変(OR 19.81,p =.006),GMTを含む病変(OR 25.24,p <.001)はHODと有意に相関した.出血イベント数,手術,切除範囲はHODの出現の予測因子ではなかった.
HODの存在は,最終追跡時の機能予後不良(mRS ≥3)と相関し(p =.012),ロジスティック回帰解析ではGMTを含む病変は機能予後不良の単独の独立予測因子であった(OR 3.44,p =.040).

【評価】

オリーブ核仮性肥大(HOD)は,協調運動にとって重要なGuillain–Mollaret三角(GMT)におけるシナプス間変性を反映する(文献1).脳幹の海綿状血管腫(CCM)がHODの最も一般的な原因であるが,橋出血,梗塞,腫瘍など他の病因も報告されている(文献1-5).HODの臨床症状には口蓋ミオクローヌス,振戦,運動失調,測定障害などが含まれ,協調運動における障害を反映する.これらの症状は初回障害から数週〜数ヵ月後に発症し,長期に持続することもある(文献5,6).
本研究は,脳幹CCMにおけるHODの頻度,リスク因子,臨床的意義を解析したもので,過去最大のコホートである.この結果,脳幹CCMにおけるHODは,①平均8.8年の追跡期間では頻度は20%であり,②橋の病変とGMTを含む病変がHOD出現と相関し,③HOD症例の58%がHOD特有の症状を呈し,④HODの存在は最終追跡時の機能予後不良(mRS ≥3)と相関することが明らかになった.GMTを構成する中心被蓋路(central tegmental tract)は橋背側に存在するので橋に存在するCCMとHODが相関することは容易に想像できる.
興味深いのは,GMTをその内部に含む脳幹CCMのすべてがHODを呈する訳ではないことで,本コホート全体では60.5%の病変がGMTを含んでいたにもかかわらず,実際にHODを示したのは20%にすぎなかった.脳小血管病,ステロイド反応性炎症性疾患,外傷性脳損傷,遺伝子変異に関連したHODの報告もあり,その発生は多因子的と想定される.著者らによれば,脳幹CCMに伴うHODは,手術や出血という急性事象よりも複数の解剖学的・構造的因子によって駆動される慢性的なシナプス間変性過程として説明されるべきであるという(文献7).
いずれにせよ,ロジスティック解析によって明らかにされた,脳幹CCMではそのサイズではなくHODのみが機能予後不良の予測因子であったという事実は,特にこの領域を扱う脳外科医にとっては重要で,予後推定と患者カウンセリングの際に有用な情報と思われる.

執筆者: 

有田和徳