ユビキチンC末端水解酵素L1(UCH-L1)血中濃度はくも膜下出血患者の予後推定に有用:聖心カトリック大学病院(ローマ)の102例

公開日:

2025年10月6日  

Explorative Values of Ubiquitin Carboxy-Terminal Hydrolase L1 in Spontaneous Subarachnoid Hemorrhage: Prediction of Clinical Outcomes and Delayed Cerebral Ischemia

Author:

Auricchio AM  et al.

Affiliation:

Neurosurgery, University Hospital Foundation A. Gemelli IRCCS, Catholic University of the Sacred Heart, Rome, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:40824026]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

ユビキチンC末端水解酵素L1(UCH-L1)は神経細胞の細胞質に高濃度に存在し,近年,神経損傷バイオマーカーとして注目されている.ローマの聖心カトリック大学脳外科は,UCH-L1血清中濃度が,くも膜下出血患者における遅発性脳虚血(DCI)と機能予後の予測因子となり得るかどうかを,前向き観察研究で検討した.
対象は2022年1月から2年半で治療したくも膜下出血患者102例(動脈瘤有りが80%,平均年齢59歳,女性62%)で,くも膜下出血発症後の24時間,72時間,7日目のUCH-L1の血清中濃度を測定した.UCH-L1はAbbott自動分析装置を用いて,化学発光マイクロ粒子免疫測定法(CMIA)で測定した.

【結論】

アウトカムは発症14日目と3ヵ月目の機能予後不良(mRS:3-6),死亡,DCIの発生とした.
多変量ロジスティック解析では,発症24時間目のUCH-L1レベルは発症3ヵ月目の機能予後不良とDCI発生の独立した予測因子であった(p <.001とp =.026).
ROC解析では,発症14日目と3ヵ月目の機能予後不良を予測し得る発症24時間目のUCH-L1血中濃度のカットオフ値は174.6 pg/mLであった.オッズ比はそれぞれ10.55(95% CI 4.23-26.36),7.79(95% CI 3.11-19.52)であった.

【評価】

従来から,くも膜下出血後のDCIや転帰を予測する複数の臨床指標が用いられている(文献1).一方近年,血液脳関門障害の指標となり得るGFAPやS100蛋白などの血清バイオマーカー解析による転帰予測の可能性が探求されている(文献2,3).
ユビキチンは不要なタンパク質の除去をはじめとして,DNA修復,シグナル伝達など多彩な機能を持っている.ユビキチンC末端水解酵素L1(UCH-L1)は脱ユビキチン化酵素であり,細胞内遊離ユビキチンのレベルを調節し,選択的なタンパク質分解を促進する重要な役割を果たす.UCH-L1は,特に神経細胞に豊富に存在し(脳内の総タンパク質の1-2%を占める),中枢神経障害の早期マーカーとして期待されている(文献4-7).くも膜下出血に際して,UCH-L1は迅速に髄液中に放出され,血液脳関門の破綻により血中にも移行する.この迅速な移行は神経障害の超早期マーカーとしての有用性を示唆している.
本稿は,102例のくも膜下出血患者を対象とした前向き観察研究である.その結果,発症24時間目の血清UCH-L1レベルが発症3ヵ月目の機能予後不良(mRS:3-6)とDCI発生の独立した予測因子であることが明らかになった.またROC解析でも,発症24時間目のUCH-L1血清濃度が,発症後14日目と3ヵ月目の機能予後不良を高い精度で予測した(AUC:0.8225と0.7874).しかし,DCIの予測に関しては未だ充分ではなく,著者らが示したカットオフ値130.3 pg/mLでは感度は80%と高かったが,特異度は46%にとどまった.
従来から用いられてきた予測因子であるFisherグレード,H&Hスケール,画像上の出血量などに,神経損傷を直接反映するこのUCH-L1血清濃度値を加えることによって,くも膜下出血によるDCI発生や機能予後推定がより正確になれば,医療資源の投資がより有効となり得る.
今後の多施設共同の前向き試験で本研究の発見が検証され,UCH-L1血清濃度と他の臨床指標を組み合わせたDCI予測スコアリング・システムが登場することを期待したい.

執筆者: 

有田和徳