Trapped temporal horn(TTH)症候群に対する改良下角-前角シャント手術の長期効果:中国2施設の53例

公開日:

2026年2月9日  

Refined temporal-to-frontal horn shunting for trapped temporal horn syndrome: long-term outcomes and complication management in a two-center series of 53 patients

Author:

Wang Z  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:41569647]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳室内腫瘍などによって,側脳室下角が他の側脳室部分から分離され,拡大することがある.これは非交通性水頭症の一種で,trapped temporal horn syndrome(TTHS)と呼ばれる(文献1,2).TTHSに対する標準治療として,従来は下角-腹腔シャントが用いられてきたが(文献3),いくつかの合併症の畏れがある.これに対して,2010年,下角-前角シャント手術(TFHS)が導入されたが(文献4),原法は側頭葉を穿刺することによるリスクがあった.近年,北京天壇病院および北京豊台病院では,頭頂後頭移行部から側脳室下角にシャントチューブを挿入し,側脳室前角とを結ぶ改良TFHSを実施してきた(文献5).

【結論】

本稿は,2017年以降の8年間で,髄膜腫などの腫瘍に対する開頭手術後に発生したTTHSに対して,改良TFHSを実施した連続53例の解析である.47例では対側前角とのシャントが行われた.
全体の成功率(症状改善,画像所見の改善,重大な合併症がない)は98.1%であった.下角容積の平均縮小率は手術当日で30%であり,術後1週間以内に脳室サイズは安定化し,術後3ヵ月で60%であった.初回シャント開存率は86.8%であり,13.2%(7例)で脳室外ドレナージや再手術を要した.髄液感染などの合併症はほぼ全例で有効に管理された.
最長6年の長期追跡でも,50例(94.3%)で下角の再拡大は認められなかった.

【評価】

Trapped temporal horn syndrome(TTHS)は,脳室内腫瘍,のう胞性病変,脳室内出血,感染などによって,側脳室下角が他部位から分離され,脈絡叢から分泌され続ける髄液の行き場が無くなり,側脳室下角が拡大する病態である.Shafiqueらの2024年のレビューによれば,TTHSの原因で最多のものは脳腫瘍(42.3%)で,感染(22.3%),脳室内のう胞(13.1%)が続いている(文献6).症状としては,頭痛(41.9%),けいれん(13.2%),傾眠(12.5%),記銘力低下(11.0%)などが報告されている.
TTHSに対しては,従来,下角-腹腔シャントが行われてきたが(文献3),シャントの閉塞,感染,腫瘍の腹膜播種,オーバードレナージなどのリスクがある.2010年には,Hervey-JumperらによってTTHSに対するTFHS(temporal-to-frontal horn shunting:下角-前角シャント)が導入されたが(文献4),このTFHS原法は,側頭葉を穿刺し脳幹方向に向けて側脳室下角に到達する手技であるため,側頭葉上の動静脈損傷や脳幹損傷のリスクがあった.
本稿の著者らが開発した改良TFHSは,頭頂-後頭骨移行部(Frazierポイント)にバーホールを穿ち,前下方に向けて側脳室下角を穿刺する方法で,下角までの距離は長いが刺入部や進入方向に重要構造がないため,比較的安全な方法と思われる(文献5).本稿は,彼らが実施した連続53例を解析して,TTHSに対する改良TFHSの有用性を検討したものである.その結果,頭蓋内出血は生じず,初回シャント開存率は86.8%であった.53例中7例(13.2%)で脳室外ドレナージや再手術を要したが,最終的に94.3%で下角の再拡大なしでコントロールできている.なお,前角穿刺は,前角の形状に基づいてTTHS側の同側か反対側が選択されたというが,大部分(88.7%)で反対側の前角が選択されている.これは,TTHSと同側の前角は原疾患の影響で変形しやすいためと思われる.
TTHSの標準的な日本語訳は存在しないが,脳室内,特に三角部の髄膜腫の手術後などによく遭遇する病態である.本稿は,改良TFHSの有用性を示唆してはいるが,改良TFHSがこの病態に対する第一選択となるためには,下角-腹腔短絡術やTFHS原法と比較した研究が必要である.

執筆者: 

有田和徳