妊娠中の脳幹海綿状血管腫に対する手術はリスクが高いか:自験の11例と文献例12例

公開日:

2026年6月11日  

Surgical treatment of brainstem cavernous malformations in pregnancy: a retrospective single-center series and systematic review of the literature

Author:

Nico E  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, St. Joseph's Hospital and Medical Center, Phoenix, Arizona, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41616314]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jan
巻数:144(5)
開始ページ:1009

【背景】

脳幹の海綿状血管腫(BSCM)は脳全体の海綿状血管腫の30%を占めるが(文献1,2),脳幹という高機能部位に存在するため,症候性出血率が高く(2.7-6%/患者・年)(文献3,4),症候性のものでは,積極的な治療の対象と考えられている(文献5,6).
極めてまれながら,BSCMが妊娠中に発見されることがあるが,その管理・治療に関してはコンセンサスはない.
BNI(フェニックス)の脳外科は過去37年間に,妊娠中に発症し,顕微鏡下摘出術を受けたBSCM 11例を後方視的に解析した.発症時平均妊娠週数は19.6±10.1週であり,妊娠第1三半期,第2三半期,第3三半期での発症はそれぞれ4例,3例,4例であった.

【結論】

手術リスクは,評価可能であった9例中7例(78%)が低グレード(Lawtonグレード0-II),2例(22%)が中間グレード(III-V)であった.
11例中7例(64%)は2回以上の出血歴を有し,4例(36%)は1回の出血歴であった.
7例(64%)が妊娠中に手術を受け,4例(36%)が分娩後に手術を受けた.最終転帰は全例で良好(mRS ≤2)であり,神経学的状態は全例で不変または改善であった.
文献例12例を加え総計23例で解析したが,妊娠中手術群12例でも,分娩後手術群11例でも,最終転帰が良好(mRS ≤2)の頻度は92%及び90%と高かった.分娩情報のあった14例中7例(50%)で帝王切開が行われていた.

【評価】

妊娠中の生理的血圧変化,血中エストロゲンおよびプロゲステロン値の増加,さらにVEGFの発現増加が,血管リモデリングや内皮細胞増殖を誘導し,脳海綿状血管腫からの出血や病変増大のリスクを高めると考えられ(文献7),脳海綿状血管腫の患者では妊娠・出産は避けるべきとの考え方もあった(文献8).しかし近年の報告では,妊婦と非妊婦との間で出血リスクに差はないことが示されている(文献9,10).
一方,脳幹の海綿状血管腫(BSCM)は症候性出血率が高いことが知られており,稀ながら妊娠中に発見されたBSCMをどのように取り扱うべきかは臨床医にとってジレンマであった.
本稿は,BNI(Barrow Neurological Institute in Phoenix)でこれまでに経験した,妊娠中に発症し顕微鏡下摘出術が行われた11例のBSCMの解析結果である.7例(64%)が妊娠中に手術を受け,4例(36%)が分娩後に手術を受けたが,最終転帰は全例で良好であった.自験例と文献レビューを統合した23例の解析でも,妊娠中手術群,分娩後手術群ともに,良好な神経学的転帰の頻度は高率であった.
すなわち,本研究の結果,妊娠そのものはBSCMに対する摘出術後の不良な神経学的転帰のリスクとはならないことが明らかになった.さらに著者らは,BSCMを有する女性に対する手術適応の決定は,手術リスクに関するLawtonグレード,症候性出血回数,神経学的な重症度や進行性神経障害の有無を考慮して決定すべきであり,妊娠状態そのものによって決定すべきではないと結論している.
しかし,本シリーズの患者は高次の脳外科センターで細心の配慮の基に手術・管理が行われた症例であることには留意しておく必要性がある.帝王切開率が50%というのはその反映かも知れない.
ただし,現段階では,妊娠によるBSCMの出血リスク増加は否定されているため,母体の安全性への懸念のみを理由とした妊娠中絶を行う根拠はないという著者らの主張にはうなずける.また本研究の結果は,無症候性のBSCMを有する挙児希望の患者にとっても光明と言えよう.

執筆者: 

有田和徳