スタンドアローンMMAE後の慢性硬膜下血腫に対する救済的な血腫除去手術予測スコア(CSDH)の開発:ピッツバーグ大学の298例

公開日:

2026年8月27日  

The CSDH Grading Scheme for Middle Meningeal Artery Embolization: Stratified Risk of Surgical Rescue

Author:

Ma L  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Pittsburgh Medical Center, University of Pittsburgh School of Medicine, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:42423595]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Jul
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

中硬膜動脈塞栓術(MMAE)は,慢性硬膜下血腫の再発リスクを低減する目的で,外科手術(血腫除去手術)に追加されたり,直ちに手術適応とならないような慢性硬膜下血腫において,有症候化-手術を防ぐ手段として認識されている(文献1-4).
では,慢性硬膜下血腫に対してMMAEスタンドアローン(単独)治療がなされた症例で,その後に救済的な外科手術を余儀なくされた症例にはどのような特徴があるのか?ピッツバーグ大学脳外科は,MMAE単独治療がされた298件(平均年齢は74.6歳)の慢性硬膜下血腫を後方視的に解析した.

【結論】

①凝固・血小板異常あり,②画像所見(正中偏位 >6 mm,血腫厚 ≥15 mm,または急性出血成分)陽性,③神経脱落症状あり,④早期の抗血栓薬再開を必要とする併存疾患ありに各1点を与えてCSDHスコア(0-4点)を作成した.
28例(9.4%)が救済手術を要した.救済手術の必要性はグレード1(CSDHスコア0-1点,全体の87%)では5.4%,グレード2(2点,11%)では29%,グレード3(3点以上,2%)では67%であった.このCSDHスコアは良好な精度と識別能を示した(C-index 0.81).平均年齢がより高く,病前の日常生活動作依存の割合が高い100例のテストデータ・セットでも精度は維持された(ROC解析のAUC 0.85).

【評価】

ピッツバーグ大学脳外科で慢性硬膜下血腫に対してこれまでにMMAEが施行されたのは520件であったが,そのうち298件が外科治療の併用がないMMAE単独治療であった.本研究は,MMAE単独治療がなされた慢性硬膜下血腫症例に,①凝固・血小板異常,②画像所見,③神経脱落症状,④早期の抗血栓薬再開の必要性の有無を基に作成したCSDHスコア(0-4点)を付与して,救済手術のリスクを予測したものである.救済手術のリスクをCSDHスコアに応じて,3のグレード(グレード1:スコア0か1,グレード2:スコア2,グレード3:スコア3か4)に分けた.実際に救済手術が必要になったのは,グレード1:5.4%,グレード2:29%,グレード3:67%と各グレード間で明瞭な差があった.
なお,ここで言う凝固・血小板異常とは,血小板減少(<100,000),INR >1.5を伴う肝硬変および/またはアルコール中毒,または血液透析と定義されており,実際は対象患者のうち11%が陽性であった.また対象患者の47%が抗血栓薬を内服しており(抗凝固薬21%,抗血小板薬33%),13%は術後も早急な抗凝固/抗血小板療法の再開を要する併存疾患(機械弁,心内血栓,血栓塞栓リスクの高い心房細動,最近の閉塞性冠動脈疾患または脳卒中)を有していた.
著者らはこの結果を受けて,MMAE単独治療実施前に本稿で提示されているCSDHスコアを評価して,2点以上の患者では穿孔血腫除去術を併用するか,MMAE後の厳密な経過観察を行うべきであると主張している.一方,最終的に血腫除去術が必要と判断された場合でも再発抑制効果が期待されるため,適応のある患者にはMMAEを施行することを推奨している.
ピッツバーグ大学からの本論文を見れば,米国ではMMAE単独(スタンドアローン)治療が普及している印象を受けるが,決して標準的な治療手段となっているわけではない.米国でも,穿頭ドレナージ+MMAEはクラスI,レベルAで推奨されているが,MMAE単独治療は高い手術リスク,出血性素因(血小板減少・凝固障害など),高齢者などの特殊な患者群に限りreasonableな選択とされており,クラスIIa,レベルB-NRにとどまっている(文献5).
一方日本では,慢性硬膜下血腫に対するMMAEは,以前に穿頭洗浄術等の外科治療を受け,その後血腫が再発した症例が対象となっており,初発の慢性硬膜下血腫に対するMMAE単独治療は保険適用外である(文献6).
ただし,本稿で指摘されたリスク因子は,過去に穿孔血腫除去を受けた慢性硬膜下血腫患者の再発に対してMMAEを考慮する際に,MMAE単独治療とするか,再度の穿孔血腫除去を追加すべきかの判断基準となるのかも知れない.
現在,米国で進行中のCHESS試験(NCT06347796)は,中等度症候性の慢性硬膜下血腫をMMAE単独治療と通常の外科的血腫除去術に1:1で無作為割り付けする多施設RCTで,2029年2月が試験終了予定である(文献7).この試験結果で,中等度症候性の慢性硬膜下血腫で,穿孔血腫除去術をせずMMAE単独でよい患者が本当に存在するのかが明らかになるはずである.

執筆者: 

有田和徳