脳神経論文著者の国別(平均所得別)頻度の変遷:2005-2024年

公開日:

2026年8月27日  

Global Trends in the Neurosurgical Literature: A 20-Year Bibliometric Analysis by Country Income Group

Author:

Shah KH  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Miami Miller School of Medicine, Miami, Florida, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41128544]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Aug
巻数:99(2)
開始ページ:334

【背景】

脳神経外科医数,脳神経外科施設数や機器の世界各国における充実度には大きな差があった.当然,それを反映して,脳神経領域論文の著者は,いわゆる先進国に偏っていた(文献1-3).しかし,低中所得国における脳外科医療も徐々にではあるが発展しつつあり,過去10年間では,少なくともASEAN諸国の脳外科医が執筆した論文数は急速に増加しつつある(文献4).
では,世界的な動向はどうか.マイアミ大学のShahらは,過去20年間に出版された脳神経外科関連論文27,391編の著者を国毎の所得分類に基づき解析した.国民所得分類は世界銀行の基準に基づき,高所得国(HIC),高中所得国(UMIC),低中所得国(LMIC),低所得国(LIC)に分類した.

【結論】

HICは全著者関与の80.55%,責任著者関与の77.16%を占めた.一方,LICは全著者関与の2.54%,責任著者関与の0.33%にすぎなかった.多国間共同研究は全出版物の26.13%を占め,その95.37%にHICの著者が含まれたのに対し,LIC著者を含むものは9.14%のみであった.2005-2024年に,HICの責任著者シェアは86.16%から58.88%へ低下した一方,UMIC,LMIC,LICからの寄与は有意に増加した(p <.001).ジニ係数は2005年の0.74から2023年の0.61へ低下し,研究の不平等は統計学的に減少した(Kendallの順位相関係数=−0.79,p <.001).

【評価】

最初に注意しなければならないのは,本研究がデータベースとしてWeb of Scienceを用いている点である.使用されている言語の97%は英語であり,日本語の論文はわずか23本(0.08%)となっているように,解析対象はほぼ英語で書かれた論文と考えて良い.
2005-2024年の脳神経外科出版物27,391編を解析した本研究では,HICの著者が脳神経外科文献の80%以上に関与していた一方,LMICおよびLICの関与はそれぞれ10.1%,2.5%にすぎなかった.研究期間中,総出版数は4倍に増え,国際共同研究は16.0%から29.8%へ増加したが,責任著者および全著者のいずれにおいてもHICのシェアが依然として優位であった.LICとLMICが世界人口の約80%を占めるにもかかわらず,世界の脳神経外科論文に占める割合が5%未満であることは,学術上の大きな不均衡が持続していることを反映していると言うべきであろう.
この格差是正のために日本の脳外科医ができることは何なのか容易には思いつかないが,まずは自分たちが書いた論文に誰でも無料でアクセスできるよう,できるだけオープンアクセスにすることは重要であろう(文献5).また,能力あるLMICやLICの若い脳外科医を招いて研究能力を養い,母国に返すのも現実的方法であろう.国際共同研究にLMICやLICの脳外科医を含めることも重要な課題である.
ちなみに,この論文によれば国別(国民所得分類)の著者貢献数トップ15位は,米国(HIC)24.0%,中国(UMIC)6.8%,ドイツ(HIC)4.4%,英国(HIC)4.4%,インド(LMIC)2.9%,トルコ(UMIC)2.8%,日本(HIC)2.7%,フランス(HIC)2.7%,イタリア(HIC)2.7%,カナダ(HIC)2.6%,ブラジル(UMIC)1.3%,スペイン(HIC)1.3%,韓国(HIC)1.2%,オーストラリア(HIC)1.1%,オランダ(HIC)1.1%の順であった.しかし,これを各国の診療に従事する脳外科医の数で割ると,脳外科医100人あたりの論文数は英国が299本で最多,カナダ228本,オランダ185本,米国199本,フランス113本と続いているが,日本は15国中最低の9本しかない.少なくとも英語での論文に関する限り,過去20年間で英国の脳外科医は1人で3本の論文を書いているのに,日本の脳外科医は10人で1本も論文を書いていないことになる.
日本の脳外科医は他の国と異なり,脳卒中救急,脳ドック,時にはリハビリまで担っていること,各診療科間でも最長の勤務時間(56時間/週,文献6)であることなどがこの背景として挙げられるのかも知れない.もちろん,非母国語である英語で論文を書かなければならないという障壁はあるが,今後はAIの導入によって,その障壁は低くなる可能性が高い.一方で,国際発信能力を高めるためにも,現在日本語で発行されている脳外科関連学会誌の英語化あるいは和文教育誌+国際英文誌の二層構造化も喫緊の課題と思われる.
本論文のメイントピックは世界の国別の脳外科論文への貢献度であるが,我々日本の脳外科医にとっては,自らの学術活動を顧みる良い機会となっている.

執筆者: 

有田和徳