無症候性ACTH陽性コルチコトロフPitNETの臨床像と手術成績:ワシントン大学と南カリフォルニア大学の186例の解析

公開日:

2025年8月1日  

Surgical Outcomes of Silent ACTH+ Corticotroph Pituitary Neuroendocrine Tumors: A Multi-Institutional Experience and Review of the Literature

Author:

Raub SL  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Washington School of Medicine, Seattle, Washington, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40372020]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

無症候性(サイレント)コルチコトロフ下垂体腫瘍(PitNET)は,TPIT陽性のPitNETのうちでACTH過剰症(クッシング病)を示さないものである.非機能性PitNETの約20%を占め,他の非機能性PitNETと比較して高い浸潤性と再発率が示唆されているが,多数例での解析は少ない.ワシントン大学と南カリフォルニア大学で,2011年からの12年間に摘出術が行われたPitNETのうち免疫染色でのACTH陽性は277例であった.このうち91例はACTH過剰の臨床像を呈しており対象から除外された.本稿はACTH過剰症を呈さないACTH陽性サイレント・コルチコトロフPitNET186例の臨床像の解析である.

【結論】

この186例の平均年齢は52.3歳で,女性は61.3%であった.下垂体卒中の既往は10.2%,術前の頭痛は45.6%,術前の内分泌障害は46.7%で認められた.腫瘍径は平均21 mmで,術前の画像上は,鞍上部進展63.7%,海綿静脈洞浸潤(Knospグレード3-4)56.4%,斜台/蝶形骨浸潤12.3%であった.全摘出率は79.7%であった.Ki-67陽性細胞率は平均2.3%であった.45例で実施されたTPIT免疫染色は全例陽性であった.K-M解析では,再発・進行なし生存率は,平均21.5ヵ月の術後フォローアップ期間で85.9%,5年で55.6%であった.

【評価】

無症候性(サイレント)コルチコトロフPitNETは免疫組織学的にはACTHに陽性であっても,生化学的にも臨床的にもACTH-コルチゾルの過剰症を伴わないPitNETをさし,非機能性PitNETの約2割を占める(文献1-4).ただし,WHO内分泌腫瘍第5版(2022)下垂体部腫瘍ではコルチコトロフPitNETはTPIT陽性のPitNETと定義されており,免疫染色におけるACTH陽性は必須ではない(文献5).2015年に発表されたNishiokaらの非機能性PitNETの下垂体転写因子発現型と下垂体ホルモン発現型の包括的な解析によれば,TPIT陽性腫瘍83例中32例(38.6%)はACTH陰性であったという(文献6).一方,本稿の研究で対象となっているのは,無症候性(サイレント)コルチコトロフPitNETのうちACTH陽性のもののみであり,サイレント・コルチコトロフPitNETの全てではない.そのような意味で,著者らが論文タイトルを“Silent Corticotroph PitNET”ではなく“Silent ACTH+ Corticotroph PitNET”としたのは,正しい.
本研究は186例という過去最大のACTH陽性の無症候性(サイレント)PitNETのシリーズの解析である.その結果,ACTH陽性のサイレント・コルチコトロフPitNETは患者年齢が比較的若く(52.3歳),やや女性に多く(61.3%),海綿静脈洞浸潤が56.4%と高率で,全摘出率は約80%にとどまった.再発・進行なし生存は,平均21.5ヵ月のフォローアップ期間では86.6%,5年で55.6%であり,再発や進行率が高い腫瘍であることが示唆されている.これらの特徴はこれまでに報告された施設毎のシリーズやメタアナリシスの結果とよく一致している(文献3,4,6-9).こうした特徴を考えれば,サイレント・コルチコトロフPitNETの術後フォローアップにおいては,再発や進行のリスクが高いことに十分に配慮して丁寧な追跡を行う必要性がある.
非機能性PitNETの浸潤性発育とミスマッチ修復酵素MSH6/2やPD-L1のmRNAの低発現が関わっているという日本からの報告があるが(文献10),サイレント・コルチコトロフPitNETのアグレッシブな性質が何に起因するのかについて,分子生物学的な探求が求められている.また,TPIT陽性の非機能性(サイレント)腫瘍群の中でのACTHの発現が強い腫瘍(タイプI)とACTHの発現が弱い腫瘍(タイプII)の画像所見や臨床像の違いを明らかにすることも,重要な研究課題と思われる.

執筆者: 

有田和徳

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