大型のう胞性頭蓋咽頭腫に対する二段階内視鏡手術戦略

公開日:

2026年3月10日  

最終更新日:

2026年3月15日

Two-stage surgery for cystic craniopharyngiomas: a purely endoscopic strategy and outcomes

Author:

Sato Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:41422447]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2025 Dec
巻数:29(1)
開始ページ:21

【背景】

経鼻内視鏡下経蝶形骨洞手術(eTSS)は頭蓋咽頭腫に対する手術法の第一選択となりつつあるが(文献1-4),大型のう胞性頭蓋咽頭腫ではのう胞成分が鞍上部から重要な神経・血管構造の方向に突出しており,全摘出は容易ではない.
名古屋大学脳外科のグループは近年,このようなのう胞性頭蓋咽頭腫に対する二段階内視鏡下手術戦略を採用している.本稿は2020年以降の経験症例についての後方視的解析である.
対象は鞍上部から外側あるいはモンロー孔方向に伸び,結果的に視機能障害や水頭症を来したのう胞性頭蓋咽頭腫の11例.
第一段階として,経側脳室的に軟性内視鏡を用いたのう胞開窓術を行い腫瘍を縮小させ,1-2ヵ月後にeTSSで腫瘍の全摘出を試みた.

【結論】

治療前の腫瘍の平均縦径は32.1 mm,平均水平断径は33.8 mm,平均体積は22.4 cm2であった.全摘出は11例中10例で達成でき,平均22.8ヵ月の追跡期間中に再発は認められなかった.のう胞開窓術から eTSSまでの期間の中央値は54日であったが,この期間中の平均縮小率は縦方向45.3%,横方向39.3%,体積68.0%であった.
いくつかの症例では,eTSS単独ではアクセス困難なエリアがのう胞開窓術によって縮小した.下垂体機能低下と尿崩症を除いて,手術前に認められた症状はのう胞開窓術直後に全て改善した.eTSS後の病的肥満や認知機能低下などの視床下部機能障害は認められなかった.

【評価】

本稿は,鞍上部から外側あるいは上方に強く進展し,通常の内視鏡下経蝶形骨洞手術では全摘出が困難と予測されるのう胞性頭蓋咽頭腫に対する経側脳室的なのう胞開窓術と,その1-2ヵ月後のeTSSの手術成績を解析したものである.対象例11例は全例adamantinomous typeであった.のう胞開窓術は内頚動脈の外側あるいは第三脳室方向への腫瘍進展を縮小させ,その結果,その後のeTSSによって11例中10例で全摘出が達成されたという.また中央値22.8ヵ月(3.6-65.3ヵ月)の追跡期間中の軽度の再増大は1例のみであった.
特筆すべきは,のう胞開窓術だけで,内分泌系の症状を除き治療前に認められた症状の全てが術後早期に改善したということである.
のう胞開窓術がのう胞内容液を脳室内へ流出させ,無菌性髄膜炎を来す危惧はあるが,著者らは,十分な内容液の吸引とその後の徹底的な洗浄によってそのリスクを回避したという.
優れた手術成績である.今後さらに多くの症例で,また長期の経過観察で,この二段階内視鏡下手術のメリットが確定することを期待したい.

<著者コメント>
近年,経鼻内視鏡手術の発展に伴い,巨大頭蓋咽頭腫に対して単回の経鼻手術で摘出治療を完結させたとする報告も散見される.このような試みは手術技術の発展という観点から重要である.一方で,巨大病変の治療においては広範な剥離操作や周囲構造物への侵襲が不可避となる場合も多く,手術リスクの増大が懸念される.我々は,二段階手術を導入することにより,安全性,低侵襲性,さらには治療の確実性を向上させることが可能ではないかと考えた.
本研究において二段階の手術の間に1~2ヵ月の待機期間を設けた意義は,初回手術後に嚢胞が縮小し,病変が発生母地であるstalk近傍,すなわち経鼻術が有利な頭蓋中心部へと集約するような挙動を示す点にある.嚢胞の縮小に伴い,経鼻手術単独では到達が困難であった部位が自然剥離される.その結果,第二段階の経鼻手術において腫瘍への到達性および切除可能性が向上し,完全摘出率の改善と周囲構造物への損傷リスクの低減につながったものと考えられる.特に嚢胞壁が脆弱で薄い症例では,剥離操作の過程で嚢胞壁が破綻し,被膜の残存を生じやすい.一方,二段階手術では嚢胞壁の構造が保持されたまま自然剥離が進むため,経鼻手術における残存リスクを低減できる可能性がある.また,嚢胞開窓を先行することで,水頭症や視野障害などの症状を早期に改善させることが可能である.これにより,本格的な摘出治療に移行する前に患者の全身状態や内分泌学的評価・治療を行うための期間を確保することが可能となる.
一般的に巨大頭蓋咽頭腫の手術治療は超高難度である.我々が提唱する二段階手術は治療全体としての安全性・確実性の向上につながるだけでなく,手術難易度の軽減にも寄与する可能性がある.(名古屋大学脳神経外科 佐藤佳輝/竹内和人)

<コメント>
本論文で示されたtwo-stage surgeryは,巨大あるいは複雑な嚢胞性頭蓋咽頭腫に対する低侵襲かつ有効な治療戦略として非常に意義深いと考えられる.今回の対象症例はいずれもエナメル上皮腫型であったが,仮に乳頭型であった場合には,初回開窓時に得られた組織からBRAF変異を同定することで,BRAF/MEK阻害薬による分子標的治療と放射線治療を組み合わせた治療戦略が選択肢となる可能性がある.その場合,必ずしも二期的な経鼻手術を必要としない症例も想定される.
一方で,現時点ではBRAF/MEK阻害薬の保険適用は,標準治療が困難な難治性頭蓋咽頭腫に限られており,臨床応用には制度的な制約が存在する.今後,分子病態に基づく治療戦略を実臨床でより活用できるよう,保険制度や治療体制の整備も重要であると考えられる.(鹿児島大学脳神経外科 藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳