抗凝固剤服用中の患者の頭部外傷における凝固・線溶指数の経時的変化:本邦のThink FAST登録研究から

公開日:

2025年3月28日  

最終更新日:

2025年3月29日

Time-Dependent Association of Preinjury Anticoagulation on Traumatic Brain Injury-Induced Coagulopathy: A Retrospective, Multicenter Cohort Study

Author:

Matsuo K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Hyogo Emergency Medical Center and Kobe Red Cross Hospital, Kobe, Hyogo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39446739]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

人口の高齢化とともに,外傷性脳損傷(TBI)患者の中で抗凝固剤服用中の割合が増えており,非服用者と比較して予後不良になることが知られている(文献1,2,3).しかし,受傷後の血液凝固・線溶指数の経時的な変化は充分にはわかっていない.日本脳神経外科学会などが実施したThink FAST研究は,2019年以降の1.5年間に入院した65歳以上の頭部外傷患者545例(平均78.9歳)の凝固・線溶指数の経時的な変化と頭蓋内出血の程度や予後との相関を解析した.GCS <8以下は22.4%であった.87例(16%)は受傷前に抗凝固剤を服用していた.抗凝固剤の内訳はVK拮抗薬35%,Xa因子阻害薬59%などであった.

【結論】

抗凝固剤服用群では非服用群よりも重症度CTスコアが高く,転帰が不良で,Dダイマーが低く,フィブリノーゲンが高かった.血小板数は差がなかった.共分散分析では,抗凝固剤服用は,受傷後2-24時間の低いDダイマー,受傷後1-24時間のAPTT延長,受傷後24時間以内のPT-INR高値と相関していた.
抗凝固剤服用群では,より重症TBIで予後不良にも関わらず,TBI重症度の指標であるDダイマーのレベルは低いままであった(特に受傷後2-24時間).また抗凝固剤服用群では,受傷後早期から24時間までPT-INRの高値,APTTの延長が認められるので,受傷後早期からの積極的な中和薬の使用が推奨される.

【評価】

本研究は日本脳神経外科学会,日本救急医学会,日本脳神経外傷学会,日本脳卒中学会,日本循環器学会,日本脳卒中協会が実施した,抗血栓薬(抗血小板薬あるいは抗凝固薬)の投与が外傷性脳損傷(TBI)に与える影響に関する,介入を伴わない登録研究(Think FAST registry)の一部である.本論文の研究対象は抗凝固剤の内服患者であり,関連15施設で,2019年12月から2021年5月の間に前向き登録された65歳以上の頭部外傷患者545例を解析している.本研究で特筆すべきは,抗凝固剤服用中の87例と非服用の458例の受傷後24時間の凝固・線溶指数を,受傷後0-1時間,1-2時間,2-6時間,6-16時間,16-24時間に分け,その変化を両群を比較しながら詳細に解析した点である.なお,両群とも約2割の患者で抗血小板剤も同時服用していた.
頭部打撲に起因する組織因子(TF)の放出を引き金とする血中Dダイマーの上昇はTBIの重症度を反映する信頼性の高い指標であるが(文献4,5),本研究の結果,抗凝固剤服用群では重症TBI患者でも低値であり,特に受傷後2-24時間は非服用者に比較して有意に低いので,血中DダイマーはTBIの重症度の指標としてはあてにならないことを示している.また著者らは,抗凝固剤服用群では,受傷後早期から24時間までPT,APTTの延長が認められるので,TBIの重症化を防ぐために,緊急の中和剤投与を強く推奨している.実際,本研究の抗凝固剤服用患者群のうちVK拮抗薬服用患者では83%で中和薬が投与されているが,DOAC服用患者では中和薬投与は18%に過ぎなかった.これは本研究の登録期間が,Xa因子阻害薬の中和薬(アンデキサネット アルファ)が本邦で発売される以前であったことが関係しているが,今後のDOAC中和薬の普及とともに,抗凝固剤服用下のTBI患者の予後がどのように変化するのか興味深い.また現在,抗凝固剤中和薬の適応は「生命を脅かす出血または止血困難な出血の発現時」もしくは「重大な出血が予想される緊急を要する手術または処置の施行時」となっているが,相対的に軽症のTBI患者へ適応を拡大する効果とリスクについても今後検討されるべきであろう.

執筆者: 

有田和徳

参考サマリー