WHOグレード2髄膜腫に対するアジュバント放射線治療はどのような症例に有効か:マサチューセッツ総合・ブリガム病院における429例

公開日:

2025年6月20日  

最終更新日:

2025年6月21日

Evaluating Adjuvant Radiation Therapy for Grade 2 Meningioma: A Multi-Institutional Analysis

Author:

Gupta S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Brigham and Women's Hospital, Mass General Brigham, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40298374]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

WHOグレード2髄膜腫に対する術後アジュバント照射の有効性が報告されているが(文献1-4),懐疑的な報告もある(文献5).マサチューセッツ総合・ブリガム病院脳外科は2006年から2020年に治療した初発のWHOグレード2髄膜腫429例(年齢中央値59.7歳,女性61.5%,肉眼的全摘出69.5%)を対象に,術後アジュバント照射の有効性を検討した.
全体では,腫瘍の肉眼的全摘出後に18.8%,亜全摘出後に48.9%がアジュバント照射を受けた.照射方法は,IMRTかVMATが45.4%,陽子線が32.8%,三次元原体照射が6.7%,定位手術的照射(SRS)が2.5%,詳細不明11.8%であった.

【結論】

照射時期中央値は術後4ヵ月で,平均追跡期間は5.2年であった.
術後アジュバント照射は肉眼的全摘出例ではPFSの延長とは相関せず(p =0.59),亜全摘例では相関した(HR 0.54,95% CI 0.31-0.94,p =.30).この関係は年齢・性・存在部位・大きさで調整しても維持された.
Ki67の定量的な評価が行われた284例では,その中央値は10%であった.術後アジュバント照射は,Ki67が10%以上の症例ではPFSの延長と相関し(HR 1.89,95% CI 1.05-3.60,p =.034),10%未満の症例では相関しなかった(HR 0.94,p =.93).

【評価】

本稿は,WHOグレード2の髄膜腫におけるアジュバント照射の役割を,429例という大規模な患者集団で解析した後ろ向き研究である.
結果を要約すれば,手術が亜全摘に終わった症例やKi67 ≥10%の症例ではアジュバント照射がPFSを延長させるが,肉眼的全摘例やKi67 <10%の症例では延長させなかったということになる.では,Ki67 ≥10%でかつ亜全摘例ではどうかというと,この関係は不明瞭であったという(HR 1.07,95% CI 0.53-2.15).症例数の問題であろうか.
WHOグレード2髄膜腫に対する術後アジュバント照射がどのような症例に有効かを明確にするためには,当然ながら大規模なRCTが必要である.現在,アジュバント照射の有用性を検討する2つのRCTが進行中である(文献6,7).ひとつは全グレード2髄膜腫を対象としたROAM/EORTC試験で,もうひとつは肉眼的全摘出後(Simpsonグレード1~3)のグレード2髄膜腫症例を対象としたNRG-BN003試験である.その結果に期待したいが,これらのRCTは低い登録率,低症例数施設からのデータという点で限界が指摘されている.実際,ROAM/EORTC試験は5年間で60施設から160例,NRG-BN003は7年目にして198施設で148例の登録にとどまっている.しかし,これらの試験が完了すれば,臨床医にとって有益な知見が提供されるであろう.
一方,2021年の第5版WHO分類では,分子マーカーによりグレード3の診断が可能となっている(例:TERTプロモーター変異やCDKN2A/Bのホモ欠失症例).本稿の研究対象には約20年前に診断された症例が含まれているために,それらの症例の一部は,現在の診断基準ではグレード3に分類される可能性がある.WHOグレード2髄膜腫に対する術後アジュバント照射の有用性を議論するためには,過去のグレード2症例に対する分子マーカー解析は避けられないであろう.
また,肉眼的全摘にはSimpsonグレード1から3までが含まれるわけで,Simpsonグレード1では,元来,再発はほとんどないであろうし,グレード3では硬膜内に潜む腫瘍細胞が増殖する可能性は高く,術後アジュバント照射の意義も見いだせるかも知れない(文献8).摘出度(Simpsonグレード)で分けた術後アジュバント照射の意義の解析も必要であろう.さらに,高齢で脳萎縮がある患者に生じた天幕上髄膜腫では,画像上の再発が直ちに臨床的な再発にはつながらない可能性もある.年齢や部位によっても,術後アジュバント照射の意義は異なるのかも知れない.
こうした結果が明らかになるまでは,術後の丁寧な画像フォローを優先させて,再発が確認できた段階で放射線治療を行うという選択肢(salvage radiation)(文献5)も患者側に提案されるべきであろう.

執筆者: 

有田和徳