腫瘍コントロールと顔面神経機能を温存し得るガンマナイフ前の前庭神経鞘腫のサイズ閾値はいくらか:Mayoクリニックの749例

公開日:

2026年2月9日  

Defining clinically significant tumor size in sporadic vestibular schwannoma to inform timing of radiosurgery during wait-and-scan management: further evidence supporting size threshold surveillance

Author:

Carlson ML  et al.

Affiliation:

Departments of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Neurologic Surgery, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41569717]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

MRIへのアクセスの向上などによって前庭神経鞘腫の有病率は増加しており,現在では70歳以上の500人に1人を超えると推定されている(文献1,2).この中で,腫瘍が小型であったり,症状が無いか軽微なために,直ぐにガンマナイフなどの定位手術的照射(SRS)や摘出手術を行わずに経過観察となるものは多い(文献3).
では,腫瘍がどのくらいの大きさであったらSRSを行うべきなのか.Mayoクリニック耳鼻科は,2000年から2022年までにSRSを受けた孤発性前庭神経鞘腫患者749例の後方視的解析を行いこの問題を検討した.対象症例のうち25%は腫瘍が内耳道内に限局しており,75%は小脳橋角槽に進展していた.

【結論】

SRS後に追跡が可能であった743例のうち,42例が腫瘍の増大や新規神経症状出現のために,初回SRS後中央値3.7年で救済治療すなわち追加治療(顕微鏡下手術35例,再SRS 7例)を受けた.追加治療の必要性を予測する腫瘍サイズの閾値は,小脳橋角槽への進展が4 mm以上であった(HR 3.60,p =.01).
SRS施行時に顔面神経機能がHBグレードI(正常)であり,かつSRS後の評価が可能であった681例のうち,22例が中央値0.6年でHBグレードII以上の顔面麻痺を呈した.顔面神経麻痺の出現を予測する腫瘍サイズの閾値は,小脳橋角槽への進展が13 mm以上であった(HR 2.88,p =.01).

【評価】

近年のMRIへのアクセスの向上などによって前庭神経鞘腫の発見率,有病率は増加しているが(文献1,2),同時に患者背景や腫瘍の特性も変化している.過去40年間で診断時平均年齢は49歳から60歳へと上昇し,くも膜下腔内の腫瘍サイズは13 mm減少し(文献4),最近では約25%の腫瘍が偶発的に診断されている(文献1).この腫瘍はWHOグレード1の良性腫瘍であるため,近年はすぐに治療を行わずに経過観察される症例も増えている(文献3).一方,最近の推定では,診断後約5年以内に,腫瘍の50%が直径2 mm以上の増大を示し,70%が20%以上の体積増大を示す(文献5-7).では,腫瘍がどのくらいの大きさであればSRSを含む治療を行うべきなのであろうか.
本研究は単一施設で743例という大規模コホートに基づいた後方視研究である.本稿では,まずSRSによって腫瘍の制御ができず,追加治療が必要となる腫瘍サイズの閾値が,小脳橋角槽内進展4 mmであることを明らかにしている.実際の腫瘍制御率は,小脳橋角槽内進展4 mm以上の腫瘍においてはSRS後10年で90%,小脳橋角槽内進展4 mm未満の腫瘍ではSRS後10年で97%であった.
さらに本稿では,SRS後の顔面神経麻痺(HBグレードII)出現の腫瘍サイズの閾値が,小脳橋角槽内進展13 mmであることも明らかにしている.実際のHBグレードI維持率は,SRS後10年時点で小脳橋角槽内進展13 mm以上の患者で93%,小脳橋角槽内進展13 mm未満の患者で98%であった.
これらの結果を見ると,閾値を超えたからといって,直ちに腫瘍制御が困難になる,あるいは顔面神経麻痺の出現率が高くなるというわけではなさそうであるが,それを超えるサイズの腫瘍では,SRS後のより慎重な経過観察が必要になるであろう.また,これらのデータはSRSを考慮している患者・家族にとっても貴重な情報となろう.
なお,聴力の維持に関しては,全対象症例のうち294例がSRS実施時に実用聴力が維持されていたが,そのうち191例(65%)では中央値2.0年(IQR 1.0-5.0年)で非実用聴力へ低下した.前庭神経鞘腫における長期的な聴力維持は,SRSでも困難であることを思い知らされる.
もう一点,著者らが強調しているのは,SRS前に少なくとも3ヵ月以上の経過観察期間を有する437例のうち,腫瘍増大速度が2.5 mm/年以上の群(35%)は,2.5 mm/年未満の群(65%)と比較して追加治療を受ける可能性がやや高かったことである(HR 1.82,p =0.18).実際に追加治療が行われた症例が20例と少なく統計学的な有意差にはなっていないが,早く増大する腫瘍では早期の摘出手術を考慮すべきなのかもしれない.このカットオフ値については他の施設のコホートで検証される必要性がある.

執筆者: 

有田和徳