脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後の放射線誘発脳腫瘍の発生リスク:日本国内18施設4,376例の長期追跡の結果から

公開日:

2026年4月9日  

最終更新日:

2026年4月10日

Radiation-induced intracranial neoplasms after stereotactic radiosurgery for brain arteriovenous malformations: a retrospective multicenter cohort study

Author:

Hasegawa T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Komaki City Hospital, Komaki, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:41616302]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

ガンマナイフによる定位手術的照射は脳動静脈奇形(bAVM)に対する治療方法の一つとして確立されているが,放射線照射による脳腫瘍発生のリスクは不明確である.
日本国内18ヵ所のガンマナイフセンターからなる研究チームは,1990年から2019年にbAVMに対してガンマナイフ治療が行われた6,263例から,フォローアップ期間3年未満の1,842例,以前の放射線治療歴がある44例,遺伝的素因がある1例を除いた4,376例を対象にこの問題を検討した.患者年齢中央値は34歳.ガンマナイフ前の治療としては,塞栓術単独が649例(14.8%),顕微鏡下手術単独が365例(8.3%),両者併用が99例(2.3%)であった.

【結論】

中央値100ヵ月の画像追跡期間中に,12例(0.27%)に新規頭蓋内腫瘍の発生を認めた.照射野内の腫瘍は5例(0.11%)発生し,すべて悪性腫瘍であり,その潜伏期間中央値は13.3年であった.照射野外腫瘍は7例(0.16%)発生し,その内訳は悪性腫瘍3例,良性腫瘍4例であり,潜伏期間中央値は17.4年であった.
10年,15年,20年の累積発生率は,照射野内腫瘍:0.08%,0.16%,0.16%,照射野外腫瘍:0.11%,0.11%,0.58%であった.腫瘍組織型別では,悪性腫瘍:0.15%,0.24%,0.40%,非悪性腫瘍:0.03%,0.03%,0.34%であった.

【評価】

bAVMに対するガンマナイフによる定位手術的照射では,良好なAVM閉塞率と同時に,稀ながら嚢胞形成や慢性被膜化脳内血腫などの晩期放射線有害事象が発生することが報告されている(文献1,2).一方,頭蓋内良性腫瘍,bAVM,あるいは三叉神経痛の4,905例に対するガンマナイフ治療後の悪性腫瘍の発生や腫瘍の悪性転化は6.80/10万人・年であり,米国や欧州の一般人口における発生率と大きな差はないことが報告されている(文献3).しかし,bAVMに対するガンマナイフ後の放射線誘発腫瘍の発生については,いくつかの報告はあるもののその実態は十分に明らかではなかった(文献2,4-7).
本稿は日本国内18ヵ所のガンマナイフセンターでbAVMに対する定位手術的照射が行われた4,376例を追跡(画像追跡期間中央値100ヵ月)した後方視的解析である.
その結果,放射線誘発脳腫瘍の発生率は0.027%/年(照射野内0.011%,照射野外0.016%,悪性腫瘍0.018%,良性腫瘍0.009%)であり,5年以内の0.005%から5年以降では0.046%へと増加することが明らかになった.本患者集団における悪性腫瘍の発生率は10万人・年あたり18.2例に相当するが,日本における悪性脳腫瘍の年齢調整発生率(文献8)と比較すると,6.0-6.7倍であった.
照射野内に発生した腫瘍の5例はすべて悪性腫瘍で,内訳は神経膠肉腫2例,膠芽腫,血管肉腫,退形成乏突起膠腫が各1例であった.これら5例のガンマナイフ治療時年齢の中央値は28歳で全体コホートの34歳より低く,おそらく症例数が少ないために統計学的な有意差には至らなかったが(p =0.20),若年患者で放射線誘発悪性腫瘍のリスクが高い可能性が示唆された.
著者らはこの結果を受けて,bAVMに対するSRS後の放射線誘発悪性腫瘍の発生率は低く,そのリスクは開頭手術に伴う死亡率と比較すれば許容範囲と考えられるが(文献9),特に若年患者における晩期発症の悪性腫瘍の可能性には注意を要する.今後,治療患者数の増加およびフォローアップ期間の長期化に伴い,このリスクは増加する可能性があると結論している.
では,ガンマナイフ後にAVMが閉塞した患者に対して,いつまで,どのくらいの頻度でMRIによる経過観察を行わなければならないのか,本研究チームによる更なる長期追跡と解析によって経過観察の指針が明らかにされることを期待したい.

<著者コメント>
本邦でガンマナイフ治療が導入されてから約35年が経過した.従来の放射線治療に伴う晩期障害としての腫瘍形成リスクについては繰り返し報告されてきたが,近年では病変周囲に照射範囲を限定する定位放射線治療が広く行われるようになっている.定位照射により遅発性放射線障害の低減が期待される一方,その腫瘍発生頻度に関する長期データは依然として乏しく,特に頭蓋内疾患では良性疾患にも定位照射が選択されることから,脳神経外科医にとって重要な懸念事項である.
本論文は,この臨床的課題に対して日本ガンマナイフ学会が主導して実施した大規模後方視的共同研究であり,脳実質内に存在する非腫瘍性病変である脳動静脈奇形(AVM)を対象としている.AVMは比較的高線量の照射が行われるうえ,若年発症例が多く長期追跡が可能であることから,定位照射後の腫瘍発生リスクを検討するうえで最適な疾患群といえる.
本研究の結果,照射野内での腫瘍発生率が照射野外と比較して極端に高いわけではなかったものの,照射野内で発生した腫瘍がすべて悪性であり致死的であった点は臨床的に注目すべき所見である.また,一般人口と比較すると現時点で約6倍の発生リスクが推定され,今後のさらなる長期追跡によりそのリスクが増加する可能性もある.しかし,手術に伴う合併症やAVM破裂による死亡リスクと比較すれば,現時点での腫瘍発生リスクは相対的に低く,特に手術適応のないAVMに対してガンマナイフ治療は依然として重要な治療選択肢である.
治療後のMRIによる観察期間とその頻度については,本研究のデータのみから明確な指針を提示することは困難である.しかし,今回示されたように,稀ではあるものの致死的な腫瘍が長期経過後に発生し得ることを踏まえると,少なくとも年1回程度のMRIによる経過観察は妥当と考えられる.また,特に若年者では可能な限り長期的なフォローアップが望ましく,今後さらなる長期追跡と症例集積を進めることで,より具体的な経過観察指針の確立に努めたい.(小牧市民病院 脳神経外科 長谷川俊典)

執筆者: 

有田和徳

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