道路交通騒音がパーキンソン病発症に与える影響:デンマークにおける前向きコホート研究

公開日:

2026年8月10日  

Road Traffic Noise, Noise Difference Between Residential Facades, and Risk of Parkinson Disease

Author:

Sørensen M  et al.

Affiliation:

Work, Environment and Cancer, Danish Cancer Institute, Copenhagen, Denmark

⇒ PubMedで読む[PMID:42475104]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2026 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

環境騒音は交感神経系および視床下部-下垂体-副腎系を活性化し,全身および脳の酸化ストレス,血管内皮機能障害,炎症を引き起こし,さらに概日リズムを変化させる(文献1-4).こうした神経炎症や概日リズムの変化は黒質ドパミン作動性ニューロンの変性をもたらす可能性がある(文献4,5).
本研究はデンマークの前向きコホート研究で,居住地における道路交通騒音への長期曝露とパーキンソン病(PD)発症リスクとの関連を検討したものである.対象はPDのない40歳以上の約310万人で,2000年から2017年まで追跡した.新規PD症例はデンマーク全国患者登録(NPR)から同定した.追跡中に20,587例がPDを発症した.

【結論】

家屋のうちで最も騒音曝露の高い外壁面の騒音(LDEN-Max)は,個人・地域レベルの社会人口学的因子,大気汚染,緑地を調整したモデルにおいて,11.5 dB(IQR)上昇あたりHR 1.03(95% CI,1.00-1.05)でPD発症と相関した.家屋のうちで最も騒音曝露の低い外壁面の騒音(LDEN-Min)もPDと相関し,8.9 dB(IQR)上昇あたりHR 1.04(95% CI,1.02-1.07)であった.
騒音曝露の最も高い外壁面と最も低い外壁面の騒音差が10 dB以上であることは,LDEN-Maxが高い集団(>50dB)におけるPD発症リスクの低減と関連した.

【評価】

PDでは黒質ドパミン作動性ニューロン内のミトコンドリア機能障害と酸化ストレスが,ミクログリア活性化,サイトカイン放出,神経炎症を惹起し,ドパミン作動性ニューロンの進行性脱落に帰結すると考えられる(文献6-8).最近,環境曝露がPD発症に関与しているとの知見が蓄積している.その一つがPM2.5大気汚染であり,PDリスクを軽度上昇させることが報告されている(文献9).近年,環境騒音もPDの潜在的危険因子として提唱されているが,エビデンスは乏しかった(文献10,11).
本稿は,デンマークにおける約310万人を対象とした,道路交通騒音とPD発症との相関を検討した前向きコホート研究である.追跡期間は18年に及んでいる.その結果,家屋の中で騒音が最も大きい外壁面においても,最も小さい外壁面においても,大きな騒音への長期曝露は居住者のPD発症リスク上昇と相関することを示した.一方,たとえ外壁面の騒音が大きな家屋であっても,(どこかに)静かな外壁面を有する家屋の居住者であれば,PD発症リスクは低下した.このことは,逆に静穏な外壁面側のない家屋では,住人が夜間を含む持続的・回避困難な騒音に曝露されやすいことを反映しているのかも知れない.結果として住人の睡眠障害とストレス反応を惹起し,黒質ドパミン作動性ニューロンの脆弱性を引きおこしている可能性がある(文献4,5,12).
おもしろい研究であるが,効果量もHR 1.03-1.05と小さく,騒音がPD発症に貢献する役割は大きくはなさそうである.他の人種や国家にも当てはまるのか,今後検証が必要である.また,本研究では室内騒音ではなく,外壁面騒音を用いたため,実際に住人が感受している騒音レベルとはかけ離れている可能性がある.
一方近年,PD以外にも騒音が発症に関連すると推定されている中枢神経疾患にはアルツハイマー病を含む認知症がある.最近のメタアナリシスによれば,環境騒音が10 dB増加するごとに,認知症リスクは約15%上昇したとされている(文献13).
こうしたことを考えれば,居住環境は静謐が望ましく,それが無理でも少なくとも夜間を過ごすための静謐な区画は必要かも知れない.

執筆者: 

有田和徳

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