もやもや病における虚血発症型と出血発症型は全く別の病型である:血行再建術の安全性と長期予後の観点から

公開日:

2026年8月10日  

Distinct Clinical Phenotypes in Moyamoya Disease: A Multicenter Comparison of Ischemic and Hemorrhagic Presentations

Author:

El-Hajj VG  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Thomas Jefferson University Hospital, Philadelphia, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:42283475]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

症候性もやもや病(MMD)の約60-70%は脳虚血(脳梗塞または一過性脳虚血発作)で発症,約30-40%は頭蓋内出血で発症する(文献1-3).この虚血型と出血型がどう異なるのかを直接比較した研究は少ない.本研究はMMDに対する血行再建術の安全性およびその後の長期脳卒中リスクを両型間で比較したものである.
対象は,2008-2022年に北米13施設で血行再建術を受けた485例,502半球で,このうち虚血発症型は423半球(84%),出血発症型は79半球(16%)であった.平均追跡期間は39.2ヵ月.

【結論】

対象症例全体では,術後合併症全体の発生率は,虚血型では出血型より有意に高かった(11% vs 2.5%,p =.016).2:1の傾向スコアマッチングを行い虚血型147例,出血型76例を抽出した後の比較でも,虚血型では術後合併症全体の発生率が有意に高かった(10% vs 2.6%,p =.043).
追跡中の脳卒中の頻度は2病型間で差はなかったが(出血型13%,虚血型10%),初発病型を反映し,虚血型では再発の95%が虚血性であったのに対し,出血型では出血性または虚血・出血両者の割合が合計70%と高かった(p <.001).
追跡期間2年以上の患者に限定した感度分析では,出血型は虚血型と比較して長期の脳卒中発生リスクが著しく高かった(調整OR 8.23,p =.006).

【評価】

血行再建術を受けたMMD 502半球を対象とするこの多施設コホート研究では,発症病型によって,転帰に顕著な差が示された.
第1に,虚血型MMDでは,出血型MMDと比較して,周術期虚血性脳卒中,TIA,脳内出血,創部合併症,けいれんなどを併せた術後合併症全体の発生率が有意に高かった.
第2に,追跡時に発生した脳卒中は初発病型を反映し,虚血型では大部分(95%)が虚血性再発であったのに対して,出血型では出血性または虚血・出血両者の割合が多く,虚血性再発は30%にとどまった.
第3に,追跡期間2年以上(平均78.5ヵ月)に限定した感度分析集団では,出血型MMDは長期脳卒中リスクが著しく高かった(OR 8.2,p =.006).
ちなみに対象患者の平均年齢は,虚血型の40.0±14.2歳に対し,出血型では47.4±14.0歳と有意に高かった(p <.001)が,その差は平均7.4歳にとどまっており,だいたい同じような年齢の患者集団ということができる.血行再建術を受けたMMD患者という前提ではあるが,この出血型MMDと虚血型MMDの臨床像の違いは何に起因するのか.
虚血型MMDで周術期合併症率が高い理由としては,基礎にある脳灌流の障害のために,手術に伴う血流変動の影響を受けやすいことが考えられる(文献4).一方,出血型MMD半球で追跡中の脳卒中(実際は約70%が出血性脳卒中)オッズが大幅に高いという事実は,出血型MMDの原因となっている側副動脈の破綻のしやすさが,血行再建術後でも容易には解消しがたいことを反映しているのかも知れない.この結果は,以前から指摘されてきた,出血型MMDは虚血型MMDほど血行再建術の適応にはなりにくいかもという懸念を支持するものとなっている(文献5,6).
症候性MMDに対する現在の標準治療は血行再建術であり,脳血流の回復,虚血イベントの減少,出血性合併症の予防を目的としており,国際的なガイドラインでも血行再建術が治療の中心である(文献7-9).しかし本研究で明らかになった,血行再建術後合併症の頻度,またその長期効果(脳卒中再発率)が,出血発症例と虚血発症例では大きく異なるという事実は,手術適応の判断,手術モダリティーの選択,あるいは患者・家族へのインフォームド・コンセントにとって重要な情報である.
ただし,本研究対象では白人が約半数を占め,もともとMMDの有病率が高いアジア人が占める割合は11.8%と低い.日本人を含むアジア人においてはどうなのか,追試が望まれる.

執筆者: 

有田和徳