IDH変異グレード2神経膠腫の手術後の復職と全生存期間は強く相関する:覚醒下マッピング手術の連続515例

公開日:

2026年8月10日  

最終更新日:

2026年8月29日

Correlation between resumption of employment and overall survival following awake mapping-based surgery for IDH-mutant grade 2 glioma: a consecutive series with 515 patients

Author:

Duffau H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Gui de Chauliac Hospital, Montpellier University Medical Center, Montpellier, France

⇒ PubMedで読む[PMID:42430801]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

覚醒下マッピングに基づく摘出術後のIDH変異グレード2神経膠腫(G2G)患者の生命予後は現在約20年に達しているが(文献1,2),日常生活への復帰については十分な注意が払われてこなかった.フランス・モンペリエ大学のDuffauは,G2G患者に対する覚醒下マッピングガイド下摘出術後の復職に関連する因子と,復職が長期転帰に及ぼす影響を解析した.対象は術前に就労していたIDH変異G2G患者で,1997年6月から2023年9月までに著者が覚醒下摘出術を行い術後2年以上追跡した515例.平均年齢36.8歳.初発症状はてんかん79.6%,偶然発見20.4%であった.術前平均KPSは95.7,平均腫瘍体積は56 cm³であった.

【結論】

術後平均KPSは94.4であり,91.5%が復職できた.平均摘出率は91.8%で,31.8%で全摘出または超全摘出が達成された.病理型は星細胞腫57.1%,乏突起膠腫42.9%であった.術後早期の補助治療は15.5%で施行され,31.3%が再手術を受けた.平均追跡期間は8.3±4.3年,最終追跡時点での全生存率は79.5%であった.復職は,術前・術後の高いKPS,術前および術後の難治性てんかん発作の低頻度,術前および術後の小さな腫瘍体積,高い摘出率,ならびに早期補助療法を行わなかったことと有意に相関した(いずれもp <0,05).さらに復職は,再手術率の高さおよび全生存期間の延長と有意に相関した(いずれもp <0.05).

【評価】

覚醒下手術と脳のネットワーク研究で有名なフランス・モンペリエ大学のDuffauの単名執筆論文である.本論文のIntroductionの1行目は,フランスの詩人Arthur Rimbaudの“Life flourishes through work:人生は労働によって花開く”で始まっている.このテーマに対する著者の熱い想いを感じることができる.
IDH変異型G2Gの患者年齢は若く,多くの患者が手術時に働いている(文献3)ので,手術後の復職の可能性は患者・家族にとって重要な関心事である.本研究は,IDH変異G2Gに対するDuffauのコネクトームに基づく覚醒下マッピングガイド下手術による平均摘出率が91.8%と高率であり,かつ復職率も91.5%と高いことを示している.この復職率は,2022年の低悪性度グリオーマ(LGG)患者の摘出術後の復職に関するシステマティックレビューにおける平均復職率73.1%(範囲31-97.1%)より高い(文献3).Duffauの覚醒下マッピングガイド下摘出術の有効性を示すものとなっている.
さらに復職は,腫瘍部位や分子学的パターンとは無関係に,①良好な機能状態(高いKPS),②小さな腫瘍体積,③高い腫瘍摘出率,④OSの延長,および⑤再手術を受ける可能性の高さと有意に相関することを示した.このうち①-④が復職と相関することは容易に想像できるが,⑤の再手術を受ける可能性と相関したのはなぜであろうか.実際の再手術例は復職群32.7%,非復職群15.9%であった(p =0.026).著者はこの相関に関して,復職群の方が再手術の恩恵を受ける可能性が高かった可能性に言及している.
本研究では復職は術前(p =0.027)および術後(p =0.001)の難治性てんかんと逆相関したが,てんかんは職業活動を直接妨げるだけでなく,自動車運転に関する法的・社会的制限を介して間接的に復職を制限するため(文献4,5),妥当な結果であろう.
本研究のシリーズでは,早期補助療法は,患者年齢など他の臨床特性や分子学的パターンにかかわりなく,部分摘出(術後腫瘍体積 >10 cm³)の場合にのみ施行された.手術後1年以内の化学療法(p <0.00001)および放射線治療(p =0.013)は復職と負の相関を示した.補助療法とりわけ放射線治療は認知機能障害を引き起こし得ることが示唆されている(文献6,7).手術前のKPSが良好で,手術後復職の可能性がある患者では,術後の補助療法開始をできるだけ遅らせることができるように,全摘出に努めるべきであろう.そのためには,著者が提唱しているコネクトームに基づく覚醒下マッピングガイド下手術は有用な手術モダリティーということになろうか.

<コメント>
本論文はDuffauからの単一施設,単一術者による最大規模のコホートでの,さらに病理もシンプルにG2に限定されている条件下での,覚醒下手術術後職場復帰がどの程度達成されているかについての秀逸な報告です.我々もしばしば,言語や運動機能は維持されているものの,高次脳機能障害や難治性てんかんなどで復職に至らないという症例を経験するかと思います.
今回の報告では,復職できなかった症例は,術前の因子として,術前KPSが低く,難治性てんかんが多く,術前体積が多かった.また術後に判明する因子として,残存腫瘍が多く,摘出率が低く,術後KPSが低く,術後早期に化学療法や放射線治療を要する症例が多かったということです.術前の腫瘍局在に差がなかったために,覚醒下手術でも取り切れないような部位に残存があると,復職につながらないとも解釈できるかと思います.代表症例にもあるように,複数回の手術を行いながら,取れるところは覚醒下手術でマッピングを行い,皮質下ネットワークを温存しながら摘出して悪性転化を防ぐことが,復職および長期生存につながることが示されています.世界最高峰の治療成績をそのまま我々が実践できるわけではありませんが,確実な覚醒下手術で機能温存を行いつつ最大限の腫瘍切除を行う方針というのは,今後とも変わらないのではないかと思います.(関西医科大学脳神経外科 松田良介)