80歳以上の高齢者の本態性振戦に対するMRガイド下集束超音波視床VIM核破壊術:5施設129例

公開日:

2026年5月25日  

Focused ultrasound thalamotomy for essential tremor in octogenarians

Author:

Panchawagh S  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Mayo Clinic, Scottsdale, Arizona, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41996720]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

本態性振戦は上肢のみならず,頭部や声も冒される重篤な障害である(文献1).有病率は一般人口では0.3%と推測されるが加齢とともに増加し,80歳以上では2.9%に達する(文献2).MRガイド下収束超音波治療(MRgHIFU)は本態性振戦に対する低侵襲的な治療として普及しつつあるが(文献3-6),80歳以上の高齢者に対する本治療法の意義は十分に判ってはいない.本研究は米国の4施設とイスラエルの1施設で,視床VIM核に対してMRgHIFUが実施された80歳以上の129例(平均年齢84歳)の後方視的解析である.治療側は左側が109例(84%),右側が20例(16%)であった.追跡期間中央値は7.1ヵ月.

【結論】

主要アウトカムには本態性振戦評価尺度(TETRAS),副次アウトカムには振戦臨床評価尺度(CRST)を用いた.
平均TETRASスコアは術前の22.1点から治療3ヵ月後には13.0点と9.2点改善した(p <.001).CRSTスコア平均値も治療前19点から,治療後5点へ改善を示した(p <.001).患者報告による平均振戦改善率は81%であった.
感覚異常や構音障害などの有害事象は軽度かつ一過性であった.
80-84歳群66例と85歳以上群63例を比較したサブグループ解析では,治療反応性に有意差は認められなかった.80-84歳群では歩行機能は軽度かつ有意に改善したものの,85歳以上群では有意差に至らなかった.

【評価】

視床腹側中間核(VIM)に対する脳深部刺激療法(DBS)は,薬剤抵抗性の本態性振戦患者の振戦重症度を有意に軽減し,QOLを改善する(文献7).しかしDBSは侵襲的外科治療の一つであり,高齢者では併存疾患が多く,抗凝固療法中の患者も多いため,合併症リスクが高い(文献8,9).一方,本態性振戦の有病率は加齢とともに上昇する(文献2).本稿で取り上げたMRgHIFUは,皮膚切開,脳穿刺,機器留置を伴わずに,高周波超音波を一点に集束させることで脳の局所温度を上昇させ,小さな熱凝固病変を形成する.本態性振戦に対するMRgHIFUの前向き研究では,振戦重症度の有意かつ持続的な改善とQOL向上が示され,多くの患者でその効果が維持されている(文献3,4).このため,特に高齢の本態性振戦患者に対する魅力的な治療選択肢となっている(文献10).本研究は,80歳以上の本態性振戦患者129例に対するMRgHIFUの長期効果および治療手技関連有害事象を評価したものである.
その結果,本治療により,本態性振戦評価尺度(TETRAS)スコア,振戦臨床評価尺度(CRST)スコアともに治療後は有意に低下した(ともにp<.001).感覚異常(16%),構音障害(16%)などの有害事象は軽度かつ一過性であった.
また,これらの効果および有害事象は,対象患者を80-84歳群と85歳以上群に分けても同様であった.ただし,85歳以上群では歩行機能の改善は軽度であり,治療前後で有意差はなかった.この原因として著者らは,85歳以上の超高齢者では末梢神経障害,変形性関節症,前庭機能障害など,振戦とは独立した併存疾患負荷が高い可能性を指摘している.
本研究の結果は高齢化の著しい日本においては特に意義が深く,とりわけADLを阻害するような強い振戦がある患者ではMRgHIFUによるVIM凝固術の適用を積極的に考慮すべきと思われる.

執筆者: 

有田和徳