ガンマナイフ後に再発した下垂体腫瘍に対する再手術の効果:Mayoクリニックと東京大学の13例

公開日:

2025年5月14日  

Safe and efficacious therapeutic outcomes with salvage endonasal transsphenoidal surgery for pituitary adenoma progression following stereotactic radiosurgery

Author:

Shinya Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurologic Surgery, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40020238]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

下垂体腫瘍(PitNET)において,手術及びガンマナイフ治療後に再発し,サルベージ-経鼻経蝶形骨洞手術(sETS)を余儀なくされることが稀にあるが,アウトカムの詳細については十分にわかっていない.本稿は,東京大学とMayoクリニックで経験したsETSの13例(年齢中央値56歳,男性8名)を後方視的に解析したものである.腫瘍の種類は,非機能性5例,ACTH産生6例,TSH産生1例,PRL産生1例.sETS後の追跡期間中央値は125ヵ月(範囲:23-169ヵ月).sETSによる腫瘍切除率中央値は90%(80-100%)であった.sETS後の新規神経脱落症状はなかったが,髄液漏が1例,感染症が1例あった.

【結論】

sETS後に再発した腫瘍4例はすべてACTH産生腫瘍であった.
両施設で1990年から2022年まで実施された初回ETS(pETS)症例と,本研究対象のsETS群の中から,手術時年齢,腫瘍最大径,左右のKnosp-クラスで高い方,腫瘍の種類を傾向スコア法でマッチさせた12例ずつを抽出して比較した.pETS群とsETS群間で全摘出率(50 vs 33%),術後髄液漏,術後下垂体機能低下,生化学的寛解率に統計学的な有意差は認められなかった.3年間PFSはsETSが僅かに良好であった(80 vs 49%,p =.216).腫瘍特異的生存率(DSS)に差はなかった(5年間DSS:90 vs 90%).

【評価】

再発下垂体腫瘍に対する一般的な治療としては,再手術の他にガンマナイフなどの定位手術的照射(SRS)が用いられることが多い.SRSによる下垂体腫瘍コントロール率は5年で94%,10年で83%とされている(文献1).しかし,SRS後の症候性再発も稀ではない.そのようなケースに対する治療としては,再度のSRS,外照射,テモゾロミド,開頭手術の他,サルベージ-経鼻経蝶形骨洞手術(sETS)がある.
SRS後の再発腫瘍に対するsETSでは,放射線による腫瘍の線維化,腫瘍とその周囲の下垂体,脳神経,内頚動脈との癒着によって,手術がより複雑になることが予想される(文献2,3,4).さらに,再手術のために解剖学的なランドマークが欠損していることも手術を困難にさせている.これらの要因によって,sETSでは下垂体機能低下,動脈損傷,脳神経損傷,髄液漏などの合併症の頻度が高くなる可能性が指摘されている.
著者らは,こうした問題点を克服するために,①詳細な術前画像評価,②術中ナビゲーション,③手術遂行上の細かな配慮の必要性を挙げている.
本稿は,そのような配慮の下で1990年から2022年に東京大学とMayoクリニックで実施されたsETSの効果の解析である.同期間に両施設で実施された下垂体腺腫に対するSRS症例は856例であるので,sETSが必要となる頻度は全体の1.5%と稀であることがわかる.
その結果,GTRは31%で達成され,5年PFSは55%,5年DSSは77%であった.一方,31%(4例,全てACTH産生腫瘍)では更なる追加治療(両側副腎摘出,再度のETS,テモゾロミド,プロトンビーム)が必要となり,そのうち2例はNelson症候群を呈し,最終的には死亡している.
本研究は対照のない後方視的研究であり,著者らのsETSの成績の客観的な評価は困難であるが,著者らは傾向スコアマッチングの手法を用いて著者ら自身のETS(pETS)12例との比較を行っている.これによれば,手術成績(GTR,寛解率,合併症)に差はなく,PFSやDSSにも差はなかった.ただし,手術合併症としてsETSにのみ髄液漏1例,感染症1例があったことには注意をはらう必要性があるように思われる.
本研究は,下垂体腫瘍のSRS後の再発に対するsETSは比較的安全に実施できることを明らかにしているが,再度のSRSやプロトンビームなど他の治療法との比較は今後の課題である.

<著者コメント>
本研究の着想は,ガンマナイフを用いた定位放射線治療(SRS)後に腫瘍再発を来し,さらなる外科的治療介入を要する下垂体腺腫が極めて稀である一方で,そのような治療群では治療方針の決定がしばしば困難であるという臨床的課題にあった.
実際に,東京大学およびMayo Clinicにおける過去30年以上のSRS治療856例を網羅的に調査した結果,サルベージ手術(sETS)を必要とした症例は13例(1.5%)にとどまり,その稀少性が裏付けられた.
13例の治療経過を詳細に検討すると,初回手術→SRS→sETSという単純な経過をたどった症例は5例のみであり,残る8例は薬物療法・放射線治療・両側副腎摘出術を含む集学的治療介入を要していた.特にACTH産生腫瘍による難治性クッシング病は,治療抵抗性が強く管理が困難な腫瘍群であることが明確となった.
注目すべきは,こうした複雑かつ高難度の症例群に対しても,適切な術前評価と標準化された手術手技を用いることで,初回手術(pETS)と同等の治療成績が達成可能であった点である.傾向スコアマッチングを用いた比較解析において,sETS群とpETS群との間に合併症率や無増悪生存率(PFS),疾患特異的生存率(DSS)に有意な差は認められなかった.
本研究が,SRS後に再度の治療介入が検討される個々の下垂体腺腫症例に対して,治療戦略の一助となる重要な知見を提供し,臨床現場における意思決定を支える臨床的意義の高い知見となれば幸いである.(東京大学脳神経外科 新谷祐貴)

執筆者: 

有田和徳