成長ホルモン産生下垂体腺腫の浸潤性はリン酸化STAT3発現と相関する:広州市南方医科大学の71例

公開日:

2025年7月11日  

Association Between p-STAT3/STAT3 Expression and Knosp Grading in Growth Hormone Pituitary Tumors

Author:

Jiang X  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Institute of Brain Diseases, Nanfang Hospital, Southern Medical University, Guangzhou, Guangdong, China

⇒ PubMedで読む[PMID:40293240]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

STAT3は,様々なサイトカインや増殖因子に応答してリン酸化(p-STAT3)され活性化する転写因子であり,細胞増殖で重要な役割を果たす(文献1,2).さらに,p-STAT3は種々の癌の発生,進行,浸潤,播種にかかわっている(文献3,4).
広州市南方医科大学脳外科は自験の成長ホルモン産生下垂体腺腫71例を対象に免疫組織学的なp-STAT3やSTAT3の発現と腫瘍の浸潤性との関係を解析した.
p-STAT3は50例で陽性,21例で陰性,STAT3は69例で陽性,2例で陰性であった.CAM5.2免疫染色に基づくサイトケラチン発現パターンは緻密顆粒性49.5%,乏顆粒性29.5%,中間型10%,陰性11%であった.

【結論】

p-STAT3陽性は腫瘍のMRI上での浸潤性(Knospグレード3,4),腫瘍最大径,マクロアデノーマ,嚢胞性変化,低い寛解率,低い摘出率と有意に相関していた(いずれもp <.05).
腫瘍の浸潤性は,腫瘍最大径,T2高信号,嚢胞性変化,高IGF-1値,乏顆粒性腺腫,p-STAT3高発現,術後の非寛解,低い摘出率と有意に相関していた(いずれもp <.05).一方で,Ki-67(>3%)およびSTAT3の発現陽性と腫瘍の浸潤性の関連はなかった(いずれもp >.5).
MRI上での腫瘍の浸潤性の予測についてのROC解析において,p-STAT3発現は乏顆粒性腺腫よりも高い精度を示した(AUC =0.845 vs 0.676).

【評価】

p-STAT3の発現は,癌組織では正常組織に比して有意に高く,腫瘍の進行性や悪性度と関連することが報告されている.さらに,p-STAT3の発現レベルは種々の悪性腫瘍における予後不良を示唆するバイオマーカーと位置づけられている.
本研究の対象症例数は71例と決して多くはないが,成長ホルモン産生下垂体腺腫におけるp-STAT3の高発現が浸潤性,最大径,マクロアデノーマ,嚢胞性変化,低い寛解率,低い摘出率と有意に相関することを明瞭に示している.
先行研究では,STAT3およびその下流の標的遺伝子は,IL-6/IL-6RやIGF-1/IGF-1Rによって活性化されることが報告されている(文献5,6).STAT3が活性化されることで下流のMMP9発現が誘導され,腫瘍の浸潤性亢進に寄与している可能性が考えられる.
一方,本研究では成長ホルモン産生下垂体腺腫の嚢胞化とp-STAT3発現の相関も示されている.腫瘍の代謝亢進状態と嚢胞化の相関が報告されており(文献7,8),この代謝亢進状態は腫瘍の進行性とも関連している.今回の研究では,浸潤性腺腫の方が嚢胞性変化を伴いやすく,嚢胞性腺腫の多くは大型腺腫であることも明らかにしている.
さらに,従来,成長ホルモン産生下垂体腺腫のうち乏顆粒性腺腫(sparsely granulated-type tumor)は浸潤性を含めたアグレッシブな発育を示しやすいことが報告されてきたが,本研究では,ROC解析の結果,乏顆粒性腺腫よりもp-STAT3陽性の方が腫瘍の浸潤性発育の予測精度が高いことが明らかにされている.
残念ながら本研究では,従来から下垂体腺腫の浸潤性との相関が指摘されているMMP2/MMP9やP53の発現との関係は検討されていない.今後,より大規模な患者集団を対象とした研究で,本研究の発見が検証されると同時に他の分子マーカーとの関連が解析され,p-STAT3高発現が成長ホルモン産生腺腫の浸潤性発育をもたらすメカニズムが明らかになることが望まれる.さらに,p-STAT3抑制を介した腫瘍制御の可能性(文献9)についても期待したい.

執筆者: 

有田和徳

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