ラトケ嚢胞に対する手術は開窓・ドレナージ術で良いかも:UCSFの手術症例278例の解析

公開日:

2026年5月6日  

Resection versus fenestration for Rathke's cleft cysts: a propensity score–matched analysis of long-term outcomes

Author:

Shukla PD  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of California, San Francisco, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41931839]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

ラトケ嚢胞に対する手術は,嚢胞壁を含めて摘出する切除術と嚢胞壁の開窓による嚢胞内容ドレナージの二つに大別される.その優劣については,再発と下垂体機能の観点から議論が続いている.UCSF脳外科は自験例を対象にこの二つの手術戦略が長期転帰に及ぼす影響を検討した.2000年以降に手術を行ったラトケ嚢胞症例は278例で,78.9%が顕微鏡下手術, 21.1%が内視鏡下手術であった.このうち122例が切除術,156例が嚢胞開窓術を受けた.開窓群では切除群と比較して嚢胞径が大きかったので(14.0 vs 11.5 mm,p <.001),嚢胞径に基づいて傾向スコア法でマッチングし,242例(両群とも121例)を抽出した.

【結論】

切除術(GTRかSTR)を受けた患者では,頭痛の改善率が有意に低かった(GTR 43%,STR 34%,開窓術59%,p =.037).新規成長ホルモン(GH)欠損の発生率は切除群で高かった(GTR 10%,STR 16%,開窓術3.2%,p =.025).嚢胞径別では,15 mm以下では開窓群は術後新規GH欠損の発生率が低かったが(p =.043),15 mm超では有意差を認めなかった.開窓群と切除群の間で再発率に有意差は認めなかったが,K-M解析ではSTR群でより早期の再発が認められた(p =.033).多変量解析では,術後の嚢胞内容残存(STR)が最も強力な再発予測因子であった(HR 4.01,p <.001).

【評価】

従来から,ラトケ嚢胞に対する手術戦略については再発率と下垂体機能温存の観点から議論が続けられており,嚢胞壁の完全切除が再発率を低下させる可能性が高いとの報告がある一方(文献1-3),嚢胞壁を含む切除術では術後下垂体機能低下の発生率が高いことが報告されている(文献4-6).
本稿は,2000年-2023年にUCSFで経蝶形骨洞手術が行われた278例を対象に,手術方法(切除手術 vs 開窓・ドレナージ)が長期転帰に及ぼす影響を検討したもので,単一施設のシリーズとして過去最大のものである.切除手術は摘出度(GTR:画像上残存病変を認めない と STR:残存病変あり)に分けてその結果を解析した.
対象例は平均44.6歳と若く,女性が多数(69%)であった.有症状症例は210例(76%)で,その内訳は頭痛74%,下垂体機能低下26%,視機能障害25%,高プロラクチン血症19%であった.嚢胞最大径は平均12.9 mm.
本研究の結果,開窓術は切除術と比較して,視機能および内分泌症状の改善率は同等であり,頭痛の改善率は高かった.また,特に嚢胞径15 mm以下の症例において,新規内分泌合併症(特にGH欠損)のリスクを低減した.無再発生存期間はSTR群で最も短かかったが(GTR:未到達,STR:118ヵ月,開窓:158ヵ月,p =.065),切除群と開窓群の比較では有意差を認めなかった(180 vs 158ヵ月,p =.5).さらに,GTR単独と比較しても開窓術後の再発率は同等であった.ちなみに本研究では,再発の診断は症状出現の有無にかかわらず,画像上の嚢胞増大所見に基づく担当医の判断によった.この結果を受けて著者らは,症例によっては開窓術が切除術に対するより安全な代替手段となり得ると結論している.
確かに,この結果を見ると,術後下垂体機能障害,特に障害されやすいGHの分泌障害のリスクを冒してまで,ラトケ嚢胞の嚢胞壁を含めた切除にこだわる必要性はないような気がする.ただし,有意差はないというものの,GTR群と比較して嚢胞開窓術群では,再発はやや多かった(GTR 18%,開窓25%).本研究の追跡期間は68ヵ月であるが,今後さらに追跡期間が延びた時にこれがどう変化していくのか,明らかにしてほしい.
また,本研究で用いられた単純な嚢胞開窓・蝶形骨洞ドレナージ術に伴う再発(嚢胞液の再貯留)を防ぐために,従来からくも膜下腔へのドレナージ,嚢胞壁と蝶形骨洞粘膜との結合,有茎鼻中隔粘膜弁の嚢胞内への挿入などの変法が提案されている(文献7-9).これらのモダリティーと嚢胞開窓・蝶形骨洞ドレナージ術の長期転帰における違いも興味深い.

<コメント>
本研究の対象症例は顕微鏡手術が約8割を占めており,現在の日本において主流である内視鏡手術との単純な比較は難しい面がある.特に全摘出(GTR)を目指す際の下垂体や視神経への低侵襲性については,頭蓋咽頭腫等の知見を見ても近年は内視鏡手術の優位性を支持する報告が多く,その点に留意して結果を解釈する必要がある.
また,日本における実臨床の手術適応との乖離も考慮すべき点である.日本では視機能障害を伴う場合に手術が強く推奨される一方,頭痛や軽微な内分泌障害を理由とした手術の推奨度は必ずしも高くない.日本のラトケ嚢胞の自然歴を検討し手術適応を考察した報告でも,視機能障害以外を理由とする手術には一歩引いた慎重な姿勢が示されている(文献10).本研究では15 mm以下の嚢胞が約7割を占め,初診時の症状も頭痛が74%に上るなど,日本よりも広い適応で治療が行われている印象を受ける.予防的な側面が強い手術で,一定頻度の術後内分泌機能障害や再発が起こる可能性を考えると,症状悪化やADL低下のリスクを勘案し,ラトケ嚢胞に対する適切な介入時期について改めて考えさせられる.
著者らも述べる通り,本疾患は腫瘍ではなく嚢胞のmass effectや炎症が病態の主体であり,治療の根幹は嚢胞壁の開放を維持し内容液の再貯留を防ぐことにある.GTRで上皮を全摘すれば内容液の分泌は止まるが,開窓術でも持続的ドレナージが保たれれば有症候化は十分に防げる.本研究の「開窓術群」における再発例は,主に開窓部が自然閉鎖した群と推測される(術中髄液漏例の具体的な扱いは記載が不十分).今後の課題は,術後癒着による開窓部閉鎖をいかに回避するかである.他施設からは粘膜を用いた瘻孔閉鎖予防処置やステント留置,脳底槽との瘻孔を作成し髄液を交通させて瘻孔閉鎖を予防する手法など,様々な工夫が報告されている.本研究は特別な処置のない単純な開窓術の成績だが,それでもGTR群と再発率は同等であり,術後成長ホルモン分泌不全を有意に予防できた.今後,再閉鎖予防を施した開窓術とGTR群との比較検討により,治療成績の違いがさらに明確になることを期待したい.(筑波大学脳神経外科 木野弘善)

執筆者: 

有田和徳

関連文献