クッシング病患者における神経精神疾患のリスクと摘出手術の影響

公開日:

2026年5月6日  

Associations Between Transsphenoidal Surgery and Neuropsychiatric Disorders for Patients With Cushing's Disease

Author:

Zeng W  et al.

Affiliation:

Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:41944623]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

クッシング病(CD)患者ではしばしば神経精神症状が観察されるが,その有病率や摘出手術が神経精神症状に与える影響については詳細ではない.本稿は電子カルテを基盤とした国際的な医療データネットワークTriNetXを用い,144のヘルスケア組織から得られたCD患者(N =4,390)における神経精神疾患の有病率を,非CD患者(N =6,445,925)および非機能性下垂体腺腫患者(N =111,878)と比較したものである.またCD患者のうち,腺腫の外科的切除を受けた患者と受けていない患者において,神経精神疾患の有病率を比較した.
すべての比較において,人口統計学的背景に基づく1:1の傾向スコアマッチングを用いた.

【結論】

CD患者は,非CD患者と比較して,不安障害(RR =1.31),大うつ病性障害(RR =1.39),抑うつエピソード(RR =1.43),持続性気分障害(RR =2.30),睡眠障害(RR =1.90)のリスクが有意に高かった(いずれもp<.001).
これらの神経精神疾患リスクの有意な増加は,非機能性下垂体腺腫患者と比較した場合にも維持されていた.
一方,非手術例と比較して手術実施例では,不安障害(RR =0.78),全般性不安障害(RR =0.60),大うつ病性障害(RR =0.58),抑うつエピソード(RR =0.68),睡眠障害(RR =0.69),薬物などの物質使用障害(RR =0.69)のリスクが有意に低下していた(いずれもp <.05).

【評価】

未治療クッシング病では慢性的な高コルチゾール血症の結果,心血管障害,筋骨格系の変化,感染症などを合併する可能性が高く,死亡リスクが上昇しており,5年生存率は約50%とされている(文献1).一方クッシング病では,うつ病性障害,不安障害,躁状態が高率に合併することがよく知られており(文献2,3,4),1998年のSoninoらの報告では,54%が診断時に大うつを呈していた(文献5).また2020年のLinらのレビューでは,クッシング病患者の3-27%に躁状態または軽躁状態が認められている(文献4).持続するコルチゾールへの曝露は,ストレス調節および情動処理にとって重要な脳領域における構造的・機能的変化をもたらす(文献6-8).さらに,視床下部-下垂体-副腎軸の調節異常が,不安障害や気分障害への脆弱性を増強する(文献9,10).またこれらの神経精神疾患の発症には,クッシング病という慢性疾患に伴う心理社会的負担も関与しているものと推定される.
本稿は米国を中心とする国際的な電子カルテを基盤としたリアルワールドネットワークであるTriNetXに登録されたICD-10データを基に,クッシング病患者における神経精神疾患の相対リスクを明らかにしたものである.その結果,クッシング病患者では,非クッシング病患者および非機能性下垂体腺腫患者のいずれと比較しても,さまざまな神経精神疾患の生涯リスクが増加していること,またクッシング病患者においては,外科的切除が,おそらく高コルチゾール血症の改善を通して,大部分の神経精神疾患の生涯リスクを低下させる可能性が示唆された.
本研究で興味深いのは,両対照群(非クッシング病患者および非機能性下垂体腺腫患者)と比較してクッシング病患者では,不安障害,大うつ病性障害,抑うつエピソード,持続性気分障害,睡眠障害のリスクが有意に増加していたが,自殺関連事象,双極性障害,統合失調症については有意なリスク増加を認めなかったことである.著者らは,それぞれの神経精神疾患における神経炎症経路の違いがこの背景にあると示唆している.
本研究ではクッシング病における腺腫摘出術は神経精神疾患の生涯リスク低下と関連していたが,このことは,摘出手術が種々の身体的合併症を改善するだけでなく,神経精神疾患のリスクを低下させることを通して,患者のQOLに大きく貢献する可能性を示唆している.
本稿の結果が多施設前向き研究で確認されることを期待したい.また神経精神疾患の各サブタイプの重症度がクッシング病の病勢あるいは手術の根治性の有無によって経時的にどう変化していくのかも興味深い.

執筆者: 

有田和徳