妊娠希望女性プロラクチノーマにおける根治を目指した手術適応の再定義

公開日:

2026年6月12日  

最終更新日:

2026年6月18日

Pregnancy and delivery after surgical remission in women with prolactinomas desiring pregnancy: Refining surgical indications

Author:

Amano K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tokyo Women's Medical University, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:41879940]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2026 Mar
巻数:29(2)
開始ページ:58

【背景】

カベルゴリンがプロラクチノーマの第一選択治療として定着して既に長い(文献1-3).では,カベルゴリン第一選択治療時代におけるプロラクチノーマに対する手術療法の意義はどこにあるのか? 東京女子医科大学の天野らは,自験の女性プロラクチノーマの手術例を解析してこの問いに答えた.
先ず,1998-2008年に手術を受けた女性プロラクチノーマ患者57例を後方視的に解析し,寛解および再発の予測因子を同定した.
この結果に基づいて,新たな手術適応基準(妊娠希望,enclosed typeの腫瘍,Knospグレード ≤2)を再定義し,2009-2022年に診断・治療された135例の女性プロラクチノーマ患者に適用した.

【結論】

1998-2008年では,enclosed typeの微小腺腫における寛解率は73.8%であったが,その前期5年の52.4%に対して,後期5年では95.2%へ改善していた.術後プロラクチン値 <3 ng/mLの症例では,3-15 ng/mLの症例と比較して再発率が低かった(4.3% vs 50.0%,p =.0098).
2009-2022年に治療を行った135例中,再定義された手術適応基準を満たした32例のうち20例が手術を選択し,全例で新たな下垂体機能障害なく寛解を達成した.
両コホートを通じて,妊娠可能年齢の59例が寛解を達成した.妊娠しなかった30例中6例では再発を認めたが,妊娠・出産した29例では再発を認めなかった(p =.0237).

【評価】

現在のプロラクチノーマに対する治療のゴールドスタンダードはカベルゴリンであり(文献1-3),絶対的手術適応として確立しているのは,カベルゴリン抵抗性,カベルゴリン不耐,および髄液漏に限られている(文献1).一方,相対的手術適応としては,治療抵抗性嚢胞性プロラクチノーマ(文献4,5)や脳神経麻痺が挙げられている.さらに,生涯にわたる内服治療の回避,費用対効果(文献6,7),早期妊娠計画なども,薬物療法より手術が選択される潜在的理由となっている.
本稿の著者らが,1998-2008年に手術を施行したプロラクチノーマ症例を後方視的に解析したところ,外科的寛解後に妊娠・出産した女性では再発を認めないことを見出した.この発見に基づいて,著者らは妊娠を希望する女性に対する新たな治療戦略として,「根治可能な症例では根治手術を施行し,術後寛解後に妊娠・出産を目指す」という戦略を提案している.
彼らはこれをプロラクチノーマに対する"再定義された手術適応基準"と呼んでおり,具体的には,妊娠を希望する女性でenclosed type腫瘍,Knospグレード ≤2のプロラクチノーマを有する患者には摘出手術を提案するというものである.実際には,この手術適応基準が確立して以降(2009-),彼らの施設で治療された女性プロラクチノーマ患者135例中で,この手術適応基準に合致する症例は32例(23.7%)いた.このうち20例の患者が手術を選択し,手術後全例で下垂体機能の障害なく,寛解が達成されたという.
非常に優れた手術成績である.彼らの手術成績を経年的にみてみると,手術による寛解率は初期の5年間(1998年-2003年7月)の52.4%に対して,その後の5年間(2003年8月-2008年)では95.2%と急速に改善し,さらにその後の13年間では100%に達している.筆頭著者の経験値の上昇,腫瘍被膜の摘出などの技術の錬磨,高解像度内視鏡の導入,その他の内視鏡手術器具の改善などがその背景にあるのは間違いないので,直ちに下垂体外科医一般に勧められる手術適応基準ではないかも知れないが,今後目指すべき方向を明示している.
ちなみに,手術でプロラクチノーマの寛解を得た患者が妊娠・出産した場合に,その後プロラクチノーマが再発しないという事実は以前からエピソード的に語られてはいたが,今回,29例という多数例を基に有意の関係であることが証明されている.この機序に関しては,妊娠中には視床下部-下垂体系に適応変化が生じ,生理的なプロラクチン抑制因子であるドパミンのD2受容体量が下垂体前葉で増加したり,高エストロゲン状態への代償としてのドパミン作動性トーンの増強が起こることが報告されている(文献8-10).著者らは妊娠が視床下部-下垂体系の持続的神経内分泌リモデリングを誘導し,ドパミンD2受容体感受性の回復,プロラクチン・フィードバック機構の安定化,ホルモン恒常性の再構築をもたらすと仮定している.さらに,外科的寛解は,残存プロラクチノーマ組織による干渉を受けずに,これら妊娠誘導性変化が進行するための好条件を提供している可能性があると示唆している.

<著者コメント>
本研究は,20年近く前に着想し,女性プロラクチノーマ症例を地道に蓄積してきた結果,漸く統計学的に有意な知見として示すことができたため論文化に至ったものです.「手術寛解後に妊娠・出産した患者では再発を認めなかった」という事実は,プロラクチノーマに対して完治を期待し得る治療戦略を提示するものであり,妊孕期女性の患者さんにとって大きな福音となり得ると考えています.
一方で,本論文の意図は,プロラクチノーマに対する手術適応をむやみに拡大することではありません.手術適応とすべき症例は,あくまで「安全かつ確実に全摘出できる症例」に限られます.その判断は,各施設・各術者の経験および技術水準によって異なるものと思われますが,前提となる技術水準の一つの目安として,GH産生下垂体腺腫に対する手術単独寛解率(コルチナコンセンサスに準拠)が,少なくとも80%を超えていることが挙げられると考えています.合併症を生じさせることなく,安全かつ確実に腫瘍を全摘出できなければ,この治療戦略は成立しません.この点は強く認識しておく必要があります.また,視野障害を有するプロラクチノーマであっても,カベルゴリンが第一選択であり,基本的には手術適応とはならないことも併せて強調しておきます(文献11).
私が本稿に期待しているのは,今回示した臨床的事実と,その機序に関する仮説が,将来的にプロラクチノーマの根治を目指した新たな治療法の研究・開発につながることです.下垂体の臨床および研究に携わる多くの方々にとって,本研究が何らかのヒントとなれば幸いです.
「手術寛解後に妊娠・出産したプロラクチノーマ患者では再発しない」という事実は,これまで経験的・エピソード的には語られてきたかもしれません.しかし,この現象を多数例で統計学的に示した報告は,これまでありませんでした.今後,前向き大規模研究によって本知見が検証され,世界的に認知される確立した知見へと発展することを期待しています.
(東京女子医科大学 脳神経外科 天野耕作)

執筆者: 

有田和徳

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