血栓回収までの時間,患者の頭位は何度が良いか:米国におけるRCT(ZODIAC研究)の92例

公開日:

2025年7月31日  

Optimal Head-of-Bed Positioning Before Thrombectomy in Large Vessel Occlusion Stroke, A Randomized Clinical Trial

Author:

Alexandrov AW   et al.

Affiliation:

University of Tennessee Health Science Center, Memphis, TN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40465238]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2025 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:e252253

【背景】

血栓回収の対象患者が着院してから血管内治療室に入室するまで,どのような体位(頭位)が良いのか.本研究は米国12施設で実施されたRCTである.対象は血栓回収が必要と考えられる患者92例(平均年齢66.6歳,男性48例)で,着院後直ちに45例は0度群,47例は上体を30度挙上する群に無作為に割り当てられた.対象例は割り付けから血管内治療開始までの平均45分間,10分おきにNIHSSでモニターした.主要評価項目は,血管内治療開始前のNIHSSの2点以上の悪化とした.
当初予定された登録患者数は182例であったが,中間解析で0度群の優越性が判明したため,上記の92例で登録が中止となった.

【結論】

主要評価項目のNIHSS 2点以上の悪化は,0°群と比較して,30°群で有意に多かった(26例:55.3% vs 1例:2.2%,HR:34.40,p <.001).
カプラン・マイヤー解析でも,30°群では,NIHSSスコアが経時的に悪化した(調整後平均差:1.85点,p <.001).
安全性評価項目のNIHSS 4点以上の悪化も,0°群と比較して,30°群で有意に多かった(20例 vs 1例,HR:23.57,p =.002).両群とも入院中発生の肺炎や呼吸機能悪化はいなかった.発症から90日以内の全死亡も30°群で有意に多かった(10例 vs 2例,p =.03).

【評価】

過去のいくつかの報告では,脳梗塞患者においては,フラット体位=0°頭位と比較して30°頭位挙上が神経症状の悪化を引き起こす可能性が示唆され(文献1-3),この現象に対しては体位性脳虚血(positional cerebral ischemia)という用語が提唱されている.また本稿の著者らも,脳主幹動脈閉塞患者において,30°頭位から0°への下降が,経頭蓋ドプラー上での残存脳血流の上昇と臨床症状の改善をもたらすことを報告している(文献4,5).
本研究は米国の12施設で実施されたRCTで,血栓回収予定の患者を対象に,着院から血管内治療室搬入までの待機時間中(平均45分)に,頭位を30°挙上する群と0°頭位群に分けて神経症状の悪化の有無を比較したものである.その結果,両群の差は明白で,0°頭位群では,待機時間中の神経症状の悪化(NIHSSで2点以上)は2.2%に過ぎなかったが,30°頭位群では55.3%に達した.NIHSSで4点以上の悪化も,0°頭位群で2.1%,330°頭位群で42.6%と大差がついた.頭部挙上では脳主幹動脈閉塞患者における虚血ペナンブラ領域の血流が悪化するのであろうか.さらに,発症90日以内の患者死亡も,30°頭位群で有意に多かった(21.7% vs 4.4%).こうした結果をみると,血栓回収予定の患者を含めた脳主幹動脈閉塞の患者では,着院後,少なくとも超急性期は,上体を挙上せずに,体位はできるだけフラットとしなければならないことが判る.
興味深いのは,本研究対象の92例中71例(77.2%)は搬送チームにより30°頭位で搬送されていたことである.頭蓋内圧亢進や誤嚥性肺炎に対する配慮であろうか,あるいは米国で20%を占める高度肥満患者(BMI >35)における0°頭位での無気肺や低酸素血症への配慮であろうか.そのような危惧がなければ,本研究の結果からは,脳主幹動脈閉塞が疑われる患者では,救急搬送あるいは転院搬送時からフラット体位=0°頭位が維持されるよう,パラメディックの教育も必要と思われる.
最近中国からは,0°頭位の維持よりも,間欠的な-20°頭位の有効性を示唆する報告もある(文献6,7).脳主幹動脈閉塞急性期における頭位と虚血ペナンブラ領域の血流の関係については,脳血流検査を用いた今後の前向き研究で解明されなければならない.

執筆者: 

有田和徳