膠芽腫に対する光線力学治療は有用か:8報告772例のメタアナリシス

公開日:

2026年3月10日  

Clinical benefits of photodynamic therapy in glioblastoma: systematic review and meta-analysis

Author:

Ohadi MAD  et al.

Affiliation:

Department of Pediatric Neurosurgery, Children's Medical Center Hospital, Tehran University of Medical Sciences, Tehran, Iran

⇒ PubMedで読む[PMID:41569684]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2026 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

膠芽腫に対する光線力学治療(PDT)が導入されたのは1980年代初頭の光感受性物質ヘマトポルフィリンの利用に遡るが(文献1,2),神経毒性や脳浮腫のために,その臨床応用は制限されていた.その後に登場した第二世代の光感受性物質5-ALAやタラポルフィンは安全性と腫瘍選択制が向上しており,臨床応用が少しずつ拡がっている(文献3).
本稿は,第二世代の光感受性物質を用いた膠芽腫に対するPDTに関する8報告772例(PDT群281例,対照群491例)のメタアナリシスである.光感受性物質は5-ALAが3報告,タラポルフィンが5報告であった.

【結論】

PDTは膠芽腫患者のPFSを有意に改善した(HR 0.66,95% CI 0.50-0.86;p =.003).またOSも有意に改善し(HR 0.57,95% CI 0.46-0.70;p <.001),対照群と比較して1年生存は25%増加した(95% CI 10-40%,p =.001).5-ALA群とタラポルフィン群でOSに差はなかった(p =.32).PDT群では,一過性の脳浮腫が10%で観察されたが,合併症の発生率はPDT群と対照群で同様であった(RR 1.28,95% CI 0.66-2.46;p =.46).

【評価】

光線力学治療(PDT)では,腫瘍細胞に選択的に集積する光感受性物質を内服によって腫瘍細胞に取り込ませ,これに対しレーザーまたはLEDを用いて光ファイバー経由で特定波長の光照射を行うと,細胞障害性の活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)が産生され,腫瘍細胞死を誘導する(文献4).PDTは1960年代に初めて導入され,肺癌,消化器癌,子宮頸癌をはじめ,種々の皮膚病変など多くの悪性腫瘍に用いられてきた(文献4).PDTの抗腫瘍効果は,アポトーシスや壊死の誘導の他,免疫応答の増強,さらには血管内皮障害による腫瘍血管閉塞など多岐にわたる可能性がある(文献5,6).膠芽腫患者に対するPDTは1980年前後に開始され(文献1,2),その有用性を検討した研究もいくつか存在するが(文献3,7,8,9),その臨床的有用性に関する包括的解析はいまだ十分とはいえない.
本研究は,2012年から2025年までに出版されたPDTの後方視研究8報告772例のメタアナリシスであるが,5報告は日本からのものであった.RCTはなくマッチド・コホートとの比較が2報告であった.また7報告では,腫瘍摘出後の摘出腔に光照射が行われているが,1報告では腫瘍摘出をせずに定位的に腫瘍内にレーザーファイバーを留置して光照射を行う間質内PDTが行われていた(文献10).
このメタアナリシスの結果,PDT群では,対照群と比較して,有意のPFSとOSの延長が認められ(p =.003とp <.001),合併症の発生率は両群で差がなかった.メタ回帰解析では,PDTのPFSに対する効果とIDH変異症例割合(β =−0.02,p =.41)およびMGMTプロモーター・メチル化症例割合(β =0.02,p =.73)との間に有意な関連は認められなかった.
なお8報告中3報告では光感受性物質は5-ALAであったが,これらの患者では当然蛍光ガイド手術も行われており,このため5-ALA・サブグループによる腫瘍制御効果は蛍光ガイド手術による高い切除率の影響を受けている可能性も否定できないと著者らは述べている.一方,タラポルフィンは蛍光ガイド手術には使用されないため,タラポルフィン・サブグループにおける腫瘍制御効果はPDTそのものの殺腫瘍細胞効果を反映していると考えられる.著者らはこの結果を受けて,PDTは膠芽腫に対する術中アジュバント治療として有望であると結論している.
既に日本では2013年にタラポルフィン(レザフィリンⓇ)が膠芽腫に対する適応承認されている.しかし今後,長期効果の評価のためにも,RCTは欲しいところである.
さらに現在,日本,ドイツ,米国では,PhotobacやPentalafenなど腫瘍選択性が高く副作用の少ない次世代光感受性物質の臨床試験が進行中である.今後の発展が期待できる治療方法と思われる.注目していきたい.

<コメント>
本論文は,予後不良な膠芽腫(GBM)の治療において,光線力学療法(PDT)が生存期間を延長し得る有力な補助療法であることを,8報告を対象としたメタ解析により示したものである.解析の結果,PDTは無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善し,さらに1年生存率を25%向上させるなど,臨床的有用性が示された.本研究の背景として特筆すべき点は,中心的に用いられているタラポルフィンナトリウム(talaporfin sodium:TS)を用いたPDTが,日本で開発された手法であることである.日本ではGBMを含む原発性悪性脳腫瘍に対するPDTが,2013年より世界に先駆けて保険適用となっており,本論文に含まれる研究の多くが日本から発信されていることは,この分野における日本の貢献の大きさを示している.現在,TSを用いたPDTの照射条件は27 J/cm²で運用されているが,これは重篤な脳浮腫などの合併症を回避するため,「安全性を最優先」して設定された条件である.実際に本メタ解析でも,PDT群の合併症率は対照群と同等であることが示されており,安全性の面で一定の裏付けが得られた.今後は,この安全性を基盤としつつ,より高い腫瘍制御効果を引き出すための最適な照射量やプロトコルの再検討が,さらなる予後改善の鍵となる.また,治療の低侵襲化に向けた展開も期待される.本論文内では,腫瘍摘出を伴わずに光ファイバーを挿入して照射を行う「組織内PDT(interstitial PDT)」の有用性が示唆されている.5-ALAを用いた組織内PDTはすでに臨床応用が進んでおり,これを開頭術が困難な再発例や深部腫瘍に適用することで,患者の身体的負担を大幅に軽減できる可能性がある.さらに次世代技術として,光感受性物質に抗体を結合させて腫瘍選択性を極限まで高める「光免疫療法」へとつながる研究も進んでいる.これは標準治療に抵抗性を示す浸潤細胞を標的化するための,次の有望な戦略となる可能性がある.今後の展望として最も重要なのは,本論文でも結論づけられている通り,後方視的研究にとどまらず,ランダム化比較試験(RCT)を実施して長期的なエビデンスを確立することである.日本発の本治療法が,世界的な標準治療として確立されることが望まれる.(東京医科大学脳神経外科 深見真二郎)

執筆者: 

有田和徳